“Le vieil homme et l'enfant”

  • 2013/02/25 09:14
  • Category: 映画
画面はモノクロ。出てくるのはパリの混乱を逃れるため独り田舎に送られた男の子と、男の子を預かった家のお爺さんとお婆さん、お爺さんの愛犬で齢15歳、半分耄碌しているような老犬のキヌウ、村の人、こどもたち。

男の子は別にお爺さんとお婆さんの孫というわけではなく、パリに住む娘が、知り合いの子だからと頼んできただけ。でもお爺さんとお婆さんは男の子を実の孫のように可愛がってくれ、学校では「都会から来た子」ということでいじめられたりもするけれど、田舎の日々は平穏。お爺さんの昔話を聞いたり、犬と遊んだり、大事件は何も起こらない。1944年5月のフランス。

でも実は男の子はユダヤ人で、だからフランス風に名前を変えてこの田舎にやって来た。お母さんに教えられたとおり、お爺さんの家ではカソリックのお祈りを唱え、お風呂の時には割礼を見られまいと気を使う。一方、お爺さんはペタン元帥の心棒者で家には元帥の写真が飾ってあるし、ドイツ人もユダヤ人も大嫌いで、彼らのことをフランスに害毒を流す悪党だと思っている。そして男の子に「ユダヤ人てのは鉤鼻で耳が大きくて偏平足なんだよ。一目見ればわかる」「キヌウにもわかるぞ。奴らは臭うからな」なんてことを言う。

そしてそう言う一方で、老いた犬を労り、可愛がってあれこれ世話を焼き、お婆さんが飼っているウサギを料理すると可哀そうがって食べず、男の子が苛められて帰ってくれば慰め、元気づけてくれる、優しくて冗談好きな、ごく普通の愛すべき人物なのだ。

1944年のフランスが舞台ではあるが、そして主人公の一人はユダヤ人の男の子、もう一人は反ユダヤ人のお爺さんではあるが、冒頭にも書いたように映画の中では大事件は何も起こらない。描かれない。描かれるのはフランスの田舎の平穏、平板な日常生活。原っぱに放牧されている牛。鵞鳥を追いかける犬。その犬を追いかける子ども。日曜日のお説教。全学年いっしょの小さな学校。子どもたちの頭にシラミがいないか検査する先生。シラミを発見されて丸刈りにされる子の照れたような笑い。そうした中で日常を送る男の子に対するお爺さん、お婆さんの暖かい愛情。
ヴィシー政権下、ドイツ占領下にあるフランスという“状況”は、サブリミナル効果のようにチラ、チラと差し挟まれるだけだ。

ヴィシー政権下のフランスにおけるユダヤ人迫害の問題は、さまざまな映画になっている。さっと思いつくだけでも“Au revoir les enfants / さようなら子供たち”、“Elle s’appelait Sarah / サラの鍵”、“Un Secret”、“La Rafle / 黄色い星の子供たち”等々。みないずれ劣らぬ佳作、良作だが、この“Le vieil homme et l’enfant”も、決してこれらに引けはとらないと思う。愛情深い、暖かでユーモラスな人間が、同時に無知な人種差別主義者でありえること。そしてそれがごく普通のことであること。
何も声高に主張しないのが却っていい。

thetwoofus.jpg


Le vieil home et l’enfant (1967年仏 監督Claude Berri)

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ドロシー・L・セイヤーズ、ローリー・R・キング、P.D.ジェイムズ、ディック・フランシス、水村美苗、高村薫、戸塚真弓、ヘレン・ミレン、シャーロット・ランプリング、ソフィ・マルソー(40代以降に限る)、ヘレナ・ボナム・カーター、アンジェリーナ・ジョリー、三代目金馬、小さん、枝雀、エンヤ、クイーン、ドゥルス・ポンテス、マドレデウス、J・S・バッハ、ちあきなおみ、トケイ・ピノ・グリ、アール・グレイ、自転車(冬季を除く)、あらゆる犬と猫
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