It's my life

  • 2013/10/10 10:22
  • Category: 雑記
9月の終わりに妹から、父の具合があまりよろしくないとの連絡があった。鬱気味で、最近は食事もあまり摂らないのだという。妹は、平日は仕事があるので週末に父の病院に行ってみると言っていたが、私は妹と電話で話しながら、「父が鬱気味になるのも仕方がないよな」と考えていた。

この病院に移る前、父は実家近くのグループホームで暮らしていたのだが、何しろ自分が生まれ、80年以上暮らした町にあるホームだったから、他の居住者も職員の人たちも、辿って行けばみな知り合い。気心が知れた環境の中で父は、脳梗塞の後遺症で喋るのが不自由でも、動いたり歩いたりには介助が必要でも、TVを見たり、散歩をしたり、それなりに動きのある毎日を送っていた。しかし体調が悪化してホームにいられなくなり、空きベッドの都合で実家から離れた隣県の病院に移ってからは、父はほとんど1日ベッドに寝たきり。特に当初は感染症を患っていたため個室をあてがわれていたから喋る相手もなく、1日天井を見ているしかなかった。その後感染症が治ってからは大部屋に移れたが、老人専門の病院に元気な人がいるわけはなく、たいていは寝たきりで話相手にはならない。しかし仕事が忙しい妹はどう頑張っても2週間に1回か、1か月に1回くらいしか見舞えず、私はと言えば遥か彼方の外地にいて、1か月に1回どころか、1~2年に1回しか顔を見せないのだから、毎日毎日、話相手もおらず一人きりでいる父が、生きる気力をなくし鬱気味になるのは当たり前なのだ。

ただ幸いその週末に妹が見舞いに行ってみると、抗鬱剤等の治療が効いたのか父は幾分元気を取り戻しており、食事も摂るようになっていたとのことで少し安心したのだが、しかしこれもいつまで続くか。薬で気分が上向いているだけで、病院での父の生活が楽しみのない生活であることにはまったく変わりはなのだから。

私が子どもだった頃、父は私を本当に可愛がってくれた。父はやさしく、寛容だったし、性格的にも明るい冗談好きな人で、父を笑わせるのはとても楽しかった。私が子ども時代を生き延びることができたのは、父のおかげである。

それなのに私は老いた父に、こういう生活を送らせている。本来ならそばに住んで毎日でも見舞いに行くべきなのに、2年に1度くらいしか会いに行かない。父を思い、済まないと思うが、こういう現在を導くに至った過去の選択を悔いているわけではないし、また今の生活を中断する気もない。

私の心の中には、自身を「人非人!」と嘲る冷たい感情と、長年の間に石のように固まり、柔らかい感情など寄せ付けなくなってしまった罪悪感はあるが、後悔や慙愧の念はない。現状以外の状況は、考えられないのだ。たとえ20年前に戻り、もう一度選択し直すことができたとしても、私はやはり同じ選択をし、父と母を置いて日本を離れると思う。そして戻らないと思う。日本を出ず、あの家であのまま、窒息しそうに暮らしていくことは、私にはできなかった。

この手の話をすると、欧米人はよく“It’s your life.”と言う。あなたの人生なのだから、あなたが考え、あなたが選択するのは当然だというのだ。私も数人から言われた。一方、日本人や中国人とこの手の話をすると、ここまですっきり割り切れた反応にはならない。家族を置いて行く/捨てることに対し、たとえそれがどんなに理に適った、結果として妥当な選択であったとしても、人の道に外れた行いとして、そのことに対する忸怩たる思いが心のどこかにあるのである。

私も日本人であるから、欧米人のようにすっきり、さっぱりは割り切れない。しかし別の選択もできない。たとえ何度戻ろうと、私は同じことをする。百回戻れば百回、千回戻れば千回、わたしは父母を捨てて日本を出る。

そうして私は思う。あれほど私を可愛がってくれた父に、ここまで寂しい老後を送らせている私なのだから、その私の老後は父以上に寂しいものになるだろうと。なって当然だ、と。
子どももいない。姪も甥もいない。老いた時の家族はたぶん雪だるまだけだが、その雪だるまも私より年上だ。一人で死んでいくことを引き受けなければならない。
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Author:らうとら
ドロシー・L・セイヤーズ、ローリー・R・キング、P.D.ジェイムズ、ディック・フランシス、水村美苗、高村薫、戸塚真弓、ヘレン・ミレン、シャーロット・ランプリング、ソフィ・マルソー(40代以降に限る)、ヘレナ・ボナム・カーター、アンジェリーナ・ジョリー、三代目金馬、小さん、枝雀、エンヤ、クイーン、ドゥルス・ポンテス、マドレデウス、J・S・バッハ、ちあきなおみ、トケイ・ピノ・グリ、アール・グレイ、自転車(冬季を除く)、あらゆる犬と猫
以上、私を幸せにしてくれる方々(敬称略)

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