Annuler

  • 2013/11/30 08:00
  • Category: 言葉
昨日は当地に来て初めて、雪だるまの助けなしにフランス語での交渉事に成功。自力でできたことが嬉しくて、凍りついた病院の駐車場で足取りが弾んでしまった。

事の起こりは病院からの腸ガン検査日の連絡。例の私が体調不良で寝込んでいた日のことだったので、代わりに電話を受けた雪だるまから日取りを知らされても、実のところ朦朧とした頭には何も入っていなかった。

しかし正気に戻ったあとメモされた日付をよく見ると、その日はばっちり学校のある日。しかも私のお気に入りブラジルのマノエルがプレゼンをする日である。ええーっ、この日に学校を休むのか? なんでよりによってこの日なんだ? と俄然、気乗りがしなくなってきた。しかも今はクラスメート2人を乗せて学校に行っている身。私が休むと、彼らも学校に行けなくなるのだ。私一人の問題ではない。どうせなら検査は来年、学校が夏休みの間か、それが無理ならせめて授業のない午後がいいよなあ。ここで検査を半年後に先送りし、それにより(あるかどうかわかりもしない)ガン細胞の発見が半年遅れたところで、死亡する確率が飛躍的に高まるわけじゃなし、大勢に影響はあるまいよ。よおし、検査はキャンセルしよう!と決心した。

しかし私が「ガン検査はキャンセルする」と告げると、雪だるまはかなり強硬に反対。「いや、君は行かなければならない」と強い口調で言う。ふだんは私の意思を尊重する雪だるまなので、むっとして「なぜ?」と問うと、「なぜなら僕がそう言っているから」と理屈も何もない理不尽な回答。ますますむっとして「その日は学校がある日だ。私は学校に行きたいから検査には行かない」と言うと、「ケベックでは検査はキャンセルしないことになっている。いったんキャンセルしたら、次に順番が回ってくるのはいつになるかわからないから、人々はみな何とか都合を付けて行く。だから君も行くのだ」「嫌だ」「ガン検査なんか、みんな嫌いだ。しかし早期発見には検査しかない。行きなさい」「いやだ、行かない!」

まさに反対されるとますます態度を硬化させる、わたくしの意固地な性格を丸出しにした会話である。しかし上にも書いた通り、私は検査が嫌だから行かないと行っているのではない。その日は学校へ行きたいから、検査に行かないと言っているだけである。別の学校がない日、時間帯なら喜んでとは言わないが、まあ穏当に検査に馳せ参じるわけで、検査そのものを拒否しているわけではない。それにそもそも、たとえ父親は胃ガン、母親は大腸ガンで死亡という高リスクの私(だからファミリードクター→病院ルートで検査を割り振られたわけだが)でも、検査をするしないの選択肢は医者や病院の側ではなく、あくまで患者予備軍であるこの私にあるはずである。いくら医療保険完備、検査費用無料のケベックでも、まるでベルトコンベアに乗せられたヒヨコか何かのように、システムの言うまま唯々諾々と、自らの都合や意志をすべて消し去って検査されなければならない法はあるまい。主体は私だぜ。

というわけで、検査に行かないならいったん承諾してしまった予約をキャンセルしなければならないのだが、ふだんなら私に代わって病院に赴いたり、電話したりしてくれる雪だるまも、今回ばかりは代わりにはやってくれそうもない。自力でやるしかないぜと、昨日学校の帰り、のこのこ病院へ出かけて行った。私の仏語では、音声だけが頼りの電話でキャンセルに成功するとは思えなかったからだ。

病院ではキャンセル担当がどこだかわからなかったので、とりあえず総合受付へ行った。朝と違い、午後の受付は空いている。待つほどのこともなく私の順番になり窓口のお嬢さんに「ここで予約のキャンセルができるか?」と聞くと、「ここではない」との答え。そして彼女は私の顔を見、言葉で説明してもわかるまいと思ったのか、窓口から立ち上がって外に出ると、何と通路の先のやや離れた薄暗がりにあるキャンセル窓口まで私を案内してくれた。なんて親切! 厚くお礼を言ったことは言うまでもない。キャンセル窓口でも担当の女性は大変親切で辛抱強く、「予約を完全にキャンセルしたいのか、それとも日時を変更したいのか」と手ぶり付きで聞いてくれ、私ができれば変更したいと言うと、あっさり翌週の日取りをくれ、メモする私に日付と時間を2回繰り返してくれた。感動的なまでに親切! しかも時間は、授業のない午後! 完璧。

以前にも書いたが、私はこの病院で嫌な思いをしたことが一度もない。医師、看護師、事務担当者、みな信じ難いくらい親切である。私を知る人はみな同意してくれると思うが、私はごく普通の中年アジア人で、特に感じがいいわけでも、全身から“よい人オーラ”を発してキラキラ虹色に輝いているわけでもない。それなのに、この病院の人々のこの親切さ! まったく病院の責任者当てに御礼の投書でもしたいくらいである。ああ、それにしてもフランス語で、人の力を借りずに自力で何とかすることができて大変にうれしい。一歩人間に近づけた気がする。

*表題の「Annuler」はフランス語でキャンセルするの意。この日初めて覚えた。
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Comment

とらこ

雪だるまさんはきっとらうとらさんが病気になってしまうのをひどく恐れているんでしょうねぇ。すごく頼りにしているんだと思います。その弱気な気持ちを口にするのが恥ずかしいのでは。
それにしても病院でのやりとり、うまくいって良かったですね。わたしもドイツに行ってまもなく、フランクフルトの大学病院で意地悪な受付おばさんにすごくイヤな思いをさせられたのですが、それに対してきっぱりと(下手なドイツ語で)言い返してちゃんと診察を受けてきたとき、自分を褒めたい気持ちになりました。
これからどんどんフランス語が上手になりますよ!
  • URL
  • 2013/11/30 09:24
  • Edit

らうとら

私が病気になるのを恐れているというのは確かにあると思います。私も雪だるまが病気になったら困るなあ、と思っていますから。とらこさんちと同じくウチも2人だけの家族なので、お互いがいなくなったらつまんないですし。(とらこさんちには可愛いきいちゃんとためちゃんがいますが、ウチにはそれすらいませんから)
しかし頼りにしているというのはどうかなあ。私はもう経済的には貢献度ゼロですからねえ。家事をする人がいなくなると不便という程度かな。

それにしてもフランス語、今回は病院の人がみーんな親切だったので何とかなりましたが、すべての場所がそうとは限りませんので、やはり今後とも鋭意努力、しかないのでありましょうねえ。上手じゃなくてもいいから、用が足りるようになりたいです。
  • URL
  • 2013/12/01 08:02

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らうとら

Author:らうとら
ドロシー・L・セイヤーズ、ローリー・R・キング、P.D.ジェイムズ、ディック・フランシス、水村美苗、高村薫、戸塚真弓、ヘレン・ミレン、シャーロット・ランプリング、ソフィ・マルソー(40代以降に限る)、ヘレナ・ボナム・カーター、アンジェリーナ・ジョリー、三代目金馬、小さん、枝雀、エンヤ、クイーン、ドゥルス・ポンテス、マドレデウス、J・S・バッハ、ちあきなおみ、トケイ・ピノ・グリ、アール・グレイ、自転車(冬季を除く)、あらゆる犬と猫
以上、私を幸せにしてくれる方々(敬称略)

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