ヒトの乳房

  • 2014/02/22 05:05
  • Category: 雑記
雑誌や映画、ネット上には女性の乳房があふれており、映像としての女性の乳房は、もう珍しくもなんともないが、実生活で自分以外の女性の乳房を見ることは、実のところあまりない。銭湯や温泉に行く機会はほとんどないし、行ったとしてもまさか他人様の乳房など、しげしげ眺めるわけにはいかないからだ。

ところが先日、ジムでたまたま見ていたテレビで、モデルや女優ではない、ごく普通の女性たちの乳房を大量に見る機会があった。地元ケベックのテレビ局Canal Vie放送の『Docteur, suis-je normal?』という番組で、その回は『自分でできる乳がん検査!』みたいなエピソードだったのだ。

この番組、あとで調べると、医師と看護師のチームが各地を回って、相談に訪れる患者を診察、治療するというリアリティ・ショー系の番組らしいのだが、ホスト役はロンドンはハーレイ街にクリニックを持つ若くてハンサムな医師、訪問先は英国の各都市と、ケベックのTV局で、フランス語で放送しているくせに、なぜかホストも舞台も英国。どうしてそうなのかは謎なのだが、ともかくチームはリバプールやブリストル、サンダウンなど英国の各都市を回り、そこで診察、治療を繰り広げる。

で私が見た回は、英国のどこかの都市のショッピングモールで、20代~30代の女性たちに声をかけ、指導役の女性医師とともに、みんなで一緒に乳がんの自己検査の方法を学びましょう!というもので、広い体育館のような会場に集まった女性たちは、みな一斉に着ているものを脱いで上半身裸になると、例の片腕を上げ、もう片方の手で乳房に触ってしこりの有無を確かめるという乳がん検査を実践し始めたのだが、私は肝心の検査のやり方よりも、集まった女性たちの乳房の方に目が釘付けになってしまった。

なにしろ英国の大都市なので、集まった女性たちは白黒黄色と、肌の色もさまざまなら身体つきもさまざま。背の高い人、低い人、むっちり太った人に、鉛筆のように細い人、あるいはがっしりと筋肉質な人と、実にバラエティに富んでいる。結果、そのバラエティに富んだ彼女らの乳房もまたバラエティに富んでおり、細長いものから大きく垂れ下がったもの、サイの角のように尖って突き出たものなど、ヒトの女性の乳房にこんなにもバラエティがあったとは…と口をあんぐり開けて驚くほど、さまざまな形、大きさの乳房が一堂に会していて、私は思わず「へええ…」と嘆息した。

しかもその20数対あまりの乳房の中に、雑誌や映画で見かけるような豊かに盛り上がった、思わず触りたくなるような美しい乳房は1対もなく、むしろ失礼を承知で敢えてコメントすれば、「できれば見たくない」と敬遠したくなるような美しくない乳房がほとんどで、私はその事実に、大げさに言えば目からウロコの思いがした。

冒頭にも書いた通り、私を含め一般人は、ふだん自分自身やごく親しい人の乳房以外、ヒトの乳房を見る機会はほとんどない。よって私は今まで、雑誌、映画、ネットで見かける乳房が(準)標準で、自分以外の人はみなあのように豊かで美しい乳房を持っているのだろうと薄ぼんやり思っていたのだが、どうやら事実はまったく違うようだと、この時やっと気が付いたのだった。

考えてみればこれは当たり前である。私たちがメディアで見る美しい乳房の持ち主であるモデルや女優さんは、その姿、かたちが人並み以上に美しいからモデルや女優をしているわけで、彼女らの顔かたちが人類平均ではないように、彼女らの乳房もまた人類平均ではないのだった。況やそれが売り物のグラビアモデルの乳房に於いてをや。

というわけで、この番組のおかげで私は美的基準から見た人類の乳房における平均値は、私が考えていたよりも遥かに低いという事実に天啓のように気付いたわけだが、おかげでランペクトミーにより今まで以上に扁平になり、おまけに分割線まで入った我が乳房に対する少々の鬱屈した思いが、あっさり消えたのは儲け物だった。

実のところ、手術前に遠慮のない物言いをする義弟ジェリーから「(手術は)boob job(豊胸術)をするいい口実になるぜ」と冗談半分に言われ、私自身「人生後半で初めて“豊かな乳房”ってやつを持つのも面白いかもな」と、近所に住む一番仲のいい叔母さん、60代後半で「小さいおっぱいには飽き飽きしたのよ」と言ってboob jobを敢行した叔母さんに、どこでやったのか聞いてみようかなんて思っていたのだが、この番組を見てからはどうでもよくなった。

世の中、美しくない、鑑賞に堪えない乳房の方が、圧倒的に多いのだ。扁平で貧弱な乳房は、ま、些か寂しいが、少なくとも白人女性に多い豊かすぎる乳房よりも、邪魔にならなくてよい。それに大きい乳房を手術以外で小さくするのは難しいが、小さい乳房は下着やパッドである程度下駄をはかせることができる。増減自在というわけで、簡便この上なし。boob jobにいくらかかるのかは聞きそびれたが、いずれにせよその金があったら、代わりにアフリカにキリンと象を見に行く方がずっと楽しそうだ。象の群れがサバンナを移動するところ、見てみたいなあ。
スポンサーサイト

Pagination

Trackback

Trackback URL

http://gaudynight.blog.fc2.com/tb.php/1537-83d0a0b0

Comment

hananoiro

こんにちは。
mypressの頃から拝読してます。

面白いですね。「美しい乳」像自体がらうとらさんの
思い込み・観念上の産物なのでは。。。
私も女ですが、これは美しい、あれは醜いと
考えたことが無かったので、逆に面白かったです。
銭湯くらいでしか見てないけども。

ところで、昔「頭の刺激になるような良い書物」など
探しておられませんでしたか?
何か良いものはありましたか。
池田清彦さんの「この世はウソでできている」がかなり
オススメです。養老さんの友人の生物学者なのだけど、
日本のウソと仮説だらけのノイローゼ的現状が、
よく分かります。^_^
笑えます。

ではまたいずれ。
  • URL
  • 2014/02/22 17:12
  • Edit

らうとら

わあ、hananoiroさん、こんにちは!
ほんの2、3日前「そういえばhananoiroさんは、どうしているのかなあ」と
思っていたところでしたよ。
コメントいただいて、ご健在とわかって、すごくうれしいです。

さて「美しい乳」ですが、
hananoiroさんがおっしゃるのは、「美」という概念そのものが幻想に過ぎない
ということでしょうか?
それとも「あらゆる花は美しい」と同じように、「乳/乳房」には
美醜は存在しないということでしょうか?

前者であるならば、本当に申し訳ありませんが、私にはお返事することができません。
「美とは何か」について論じるには、私はあまりに知識不足、勉強不足で
考えているとわからなくなって、こんがらがった毛糸みたいになってしまうからです。
ごめんなさい。m(_ _)m

でも後者なら、お返事できます!
形あるものの場合、それがどんなものであっても
私には、それを見たとき快い感じを受けるもの(美しいもの)と
不快な感じを受けるもの(醜いもの)が、あるのです。

人間の体、および各パーツも同様。
手、腕、足、脚、首、背中、腹、尻、等々、あらゆる部位にわたって
快い感じを受けるもの(美しいもの)と、不快な感じを受けるもの(醜いもの)が
私には存在します。
hananoiroさん、乳はともかく、誰かの手とか首とか見て、
「あ、きれい」と思われたこと、ありませんか?
私が感じているのは、そういう気持ちなんですけど。
それとも乳は別でしょうか?

ただ、どんな形を「美」とするかは、ある程度人それぞれで
私にとっての「美」が、ほかの人にとっては「美」でない可能性は十分ありますので、
その意味で、私の「美しい乳」像は、私の思い込み、観念上の産物では?というご指摘は、その通りと思います。

ところで、池田さんの本のご紹介、ありがとうございます。
面白そうなので、次の注文に入れなくては。
送料や配送期間の心配なしに日本語の本が読めるように
いい加減、電子書籍リーダーを買うべきなのですが
いまだにどれがいいのか迷っていて、決心がついておりません。
hananoiroさん、何かお奨めのリーダーはありますか?
キンドルは海外では、今ひとつのようで。



  • URL
  • 2014/02/23 22:26

hananoiro

再び、こんにちは。
自分でも自分のハンドルネームの記憶が
定かでないような私のことを記憶してもらってて
光栄至極です。

さあ!「美」とは!?
たまには理屈っぽいのも愉しいかも。

うーん、やはり私の「美しい乳」の引き出しをあけても
何も入っていない。ミロのビーナス像や、ミケランジェロの
あの、アバウトなお椀型を思い出しても、何も感じない。
チチだな、だけなんですね。
手も、首も同じです。
わたくし、デザイン学校卒なんですが。

逆に、空を見て、花を見て、「ああ美しいな~。なんで
これを美しいと思うんだろう?」と考え込むことは
頻繁にあります。醜いものも、考えます。
その謎を解きたいから。
まずあるべき「こういうものが美しい」規定が無いのかも。

ああ、しかし「不快な人相」とかはあります!
強欲そうなオーラを出してる人とか。うわあ、と。

らうとらさんだけが、でなく、みんな、自分も、
理想の顔や体型、あるべき人生、あるべき姿、
そういうものを、どこで刷り込まれたんだろう、と
考えちゃいますね。
私たちは不自由だな、と。


池田さん、いいですよ。超リベラルなのに超ロジカルです。
「他人と深く関わらずに生きるには」文庫
なども唸っちゃうエッセイです。
タイトルからして、曲者です。^_^

キンドルって何だろうか?電子絡みのことは
からっきし、わかりません。すみません。

長くなりました。また、いつか~。

  • URL
  • 2014/02/24 14:35

らうとら

何かに対して「美」を感じるのは、刷り込みの結果でしょうか?
確かに、学習によって「美」を感じる対象が増えたり、あるいは逆に減ったりすることはあるでしょうが(たとえば、ある種の骨董に対する美醜の判断は、学習による影響大と思います。学習していなければ、古ぼけた壷などただのガラクタですから)、人が「美」を感じるすべてが刷り込み/学習の結果であるとは、私には思えません。

まあ人はまだろくに言葉もわからない赤ん坊の頃から「ほら、お花が咲いてるよ。きれいだねえ」と言われたり、絵本やアニメを見せられて何がきれいかを教え込まれたりするわけではありますが、そうは言っても言われた当人がその対象を「きれい」と感じなければその学習は成立しないわけで、まずは「感じること」が先にあるように思います。


hananoiroさんも、花とか空とかは「きれい/美しい」と思うわけでしょう? 人の手が加わっていない自然物は、刷り込みの結果ではなくて、生得的に美しい? だとしたら、私にとっての乳も、同じようなもののような気がするのですが。学習の結果というより、もう少し原初的な「快」に根ざしたもの。触ったら気持ちよさそう、みたいな。違うかな。

ちなみに、キンドルはアマゾンが出している電子書籍リーダーです。
キンドル本(電子書籍)を買って、リーダーにDLして読む、という仕組みのようす。
送料が要らない、読みたい時すぐ読める、活字を大きくできる、1つのリーダーに
何百冊でも本を保存することができる(概念、違うかも)等々の理由で
しばらく前から関心を持って眺めているのですが、ソニーとかもリーダーを出しているので
どれがいいのか迷っているのです。この田舎では、試してみるのも難しくて。

さて8時になったので、ご飯食べて、学校行ってきます。
hananoiroさんも、よい1日を!
  • URL
  • 2014/02/25 21:59

Post Your Comment

コメント:登録フォーム
公開設定

Utility

プロフィール

らうとら

Author:らうとら
ドロシー・L・セイヤーズ、ローリー・R・キング、P.D.ジェイムズ、ディック・フランシス、水村美苗、高村薫、戸塚真弓、ヘレン・ミレン、シャーロット・ランプリング、ソフィ・マルソー(40代以降に限る)、ヘレナ・ボナム・カーター、アンジェリーナ・ジョリー、三代目金馬、小さん、枝雀、エンヤ、クイーン、ドゥルス・ポンテス、マドレデウス、J・S・バッハ、ちあきなおみ、トケイ・ピノ・グリ、アール・グレイ、自転車(冬季を除く)、あらゆる犬と猫
以上、私を幸せにしてくれる方々(敬称略)

カテゴリー+月別アーカイブ

 

FC2カウンター