アミールくん

いろいろな人がいるクラスメートの中で、パレスチナから来たアミールくんには
私は概して好感情を抱いている。10歳前後でカナダに来たらしいアミールくんの家族は全部で14人。
お父さんのモハメド氏と、アミールくんには継母に当たる彼の3番目の妻、
異母兄弟も含め兄弟姉妹が12人という構成だそうである。
ただし兄弟姉妹のうち年長の2人(#1、#2)はすでに結婚していてガザ住まい
#3、#4もすでに独立し他州で働いているので
今家に残っているのは、#5であるアミールくんを頭に
残りの兄弟8人と両親だけということらしい。

アミールくんたちはカナダに移民後、アルバータ(数年)、ニューブラウンズウィック(1年)、
モントリオール(1年)など各地を転々とし、去年この田舎町に移って来た。
各地を転々とした理由についてアミールくんは「オレ、トラブルメーカーだからさ」と
自分に非がある様子で笑っていたが、本当のところはわからない。
確かに現在19歳のアミールくんは高校を修えることなくドロップアウトしたようだし
ドラッグもやっているし、モスレムのくせに酒は飲むし、
非の打ちどころなく品行方正な青年というわけではないのだが
ではどうしようもない怠け者の愚図かというと、そういうわけでもない。

そもそも彼には、いろいろなことを斜に見る皮肉さやなげやりな視線がない。
最初彼が目に留まったのも、そのくったくのない明るさが10代の男の子には珍しく
新鮮だったからである。
若い男の子のことゆえ授業中寝ていたりもするが、起きている時は授業に積極的に参加し発言するし
教師であるジョゼに対しても敬意と好意を以て対している様子が見える。
それにだいたい彼は、かなり頭がいいのだ。
モントリオールでは英語で生活していたという彼は、フランス語はまだ今ひとつだが
理解と覚えは早いし、発音も悪くない。
英語圏のカナダに長くいたので英語は問題なく話すし(母語ではないので、
チンチラとタランチュラを間違えるなど、時々傑作なお間違いをするが
それはまあ御愛嬌ということで)、数学系のゲームなどやらせると
あっというまに正解を出す。このあたり以前は数学の教授だったという父君モハメド氏の
血を引いているのかもしれない。

そういう彼を見ていると、大学に行って数学でも物理でも、何か興味のあることを勉強しないのは
もったいないような気がするが、本人はもっと実技的なものの方が好きなようで
来月から建築デザインのコースを受講できることになったと言って
もともと大きな目をさらに大きく輝かせて、嬉しそうにしていた。

そうだ、言い忘れたが、彼はかなりハンサムな青年なのである。
細面で掘りが深く、濃眉大眼という典型的アラブ顔だが、
まだ年若い分、どこぞのテロリスト指名手配写真に見るような深刻さ、
陰々たる暗さは感じられず、溌剌として邪気がない。
遺伝か、栄養がよかったのか、背も高い。
6フィート3インチ(190cm)というから、私より30センチ以上高い計算で、
そのすくすく伸びた長い手足や背を見ていると、こちらまで伸びやかな気分になる。

ただこの背の高さと典型的アラブ顔はマイナスにも働くようで
この田舎町では、彼はどこに行っても仕事にありつけない。
彼のアパートの真ん前、クラスメートの中国人リンくんが皿洗いをしていたレストランに行って
「仕事はないか?」と聞いたが、だめ。
ウォルマートや他のスーパーに行っても、だめ。
他のバー、レストランもだめ。
よって彼は現在、この小さな田舎町ではなく、隣の大きな市のアラブ食料品店兼レストランで
週末ごとにアルバイトをしている。車を持たない彼はバスで隣の市まで行き、
夜はモスクに泊まり、翌日もう1日働いてまたバスで戻ってくるのだそうである。
で週末だけでは大したお金にならないので週日も働きたいのだが、働き口が見つからない。

しかし実は上記リンくんがバイトしていたレストランでは、一時帰国中のリンくんに代わって雇った
バイトに不満で、リンくんの母上に“リンはいつ帰ってくるのだ?”と尋ねているのである。
私はこの話を同じくクラスメートであるリンくんの母上から聞いたのだから、間違いない。
160cmそこそこで痩せっぽち、吹けば飛ぶような中国人のリンくんは怖くないから雇えるけど
190cmと大柄で、どう見ても腕力的に負けそうなアミールは、怖いから雇えないということなのだろうか?


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Author:らうとら
ドロシー・L・セイヤーズ、ローリー・R・キング、P.D.ジェイムズ、ディック・フランシス、水村美苗、高村薫、戸塚真弓、ヘレン・ミレン、シャーロット・ランプリング、ソフィ・マルソー(40代以降に限る)、ヘレナ・ボナム・カーター、アンジェリーナ・ジョリー、三代目金馬、小さん、枝雀、エンヤ、クイーン、ドゥルス・ポンテス、マドレデウス、J・S・バッハ、ちあきなおみ、トケイ・ピノ・グリ、アール・グレイ、自転車(冬季を除く)、あらゆる犬と猫
以上、私を幸せにしてくれる方々(敬称略)

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