牛乳の話

昔々、私が子どもだった頃、牛乳は瓶に入っていた。だいたいが180ml入りくらいのガラスの瓶で、円い厚紙で蓋がされ、その上にセロファンの覆いがかけてあった。この厚紙の蓋は爪ではなかなかに開けにくく、ために各家庭には牛乳屋さんがおまけでくれる、プラスチックの棒の先に針がついた、牛乳の蓋開けが常備されていたはずである。赤や黄の色が付けられたこの蓋開けは、その安っぽい色合いといい、バリもろくに取れていないようなプラスチック成型といい、いかにもまだ貧しかった昭和30~40年という時代を彷彿とさせる代物で、その写真を見るだけで、土ぼこりをあげて走るオート三輪や、茶の間の特等席に据えられた17インチの白黒テレビといった、当時の風景が懐かしく浮かんでくる。


これですね

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そして当時牛乳はもちろん店でも売っていたが、どちらかというと毎朝、牛乳屋さんが各家庭に配達してくれるもので、新聞配達同様、朝、しんと静まった夜明け前の薄暗い道を行く牛乳屋さんのバイクの音が、眠りの向こうに聞こえたものだった。

そんな牛乳屋さん風景がいつ頃消えたのか、どうも記憶がはっきりしないのだが、私が10歳だった1970年(昭和45年)頃は、まだ牛乳屋さんが存在していたと思う。しかしちょうどその頃、学校の給食に瓶入り牛乳に代わってテトラパックの牛乳が登場し始め、同時に田舎の町にも“スーパーマーケット”というものが出現し始めて、冷蔵設備を備えたそうした店では牛乳やらヨーグルトやらが常に棚に並び、他の買い物のついでに気軽に買えるようになったので、“毎朝家に配達してくれる牛乳屋さん”は、徐々に姿を消して行ったように思う。

そしてそれから何年もしないうちに、家庭の牛乳は180ml入りの瓶入りから1リットル入りの紙パックに代わり(消費量の拡大?)、冷蔵庫に常備されるようになった。種類も特濃だの低脂肪だの特定牛種の乳だけで精製されたものなど、さまざまに増えた。純和風の食生活で西洋風のものなどほとんど口にしなかった我が母ですら、牛乳は時々飲んでいたようだから、戦前生まれの人の生活にも牛乳は定着したということだろう。況や学校給食で脱脂粉乳または牛乳を(半ば無理やり)飲まされて育った戦後世代においてをや。(ちなみに、私が無理やりと書くのは、私が小学生だった頃、給食の牛乳は必ず飲まねばならないもので、嫌がって飲まずにいると居残りをさせられたからである。低学年の頃、牛乳が嫌いであった私は、これには非常に迷惑した。また、それ以前のユニセフやララ物資の援助による脱脂粉乳は、栄養価は高くともお味の方は今ひとつだったようで、当時給食でこれを飲まされていた世代は、その話をすると一様に「げええ」という顔をする。私自身はさすがにそこまで古くはないので、本当に不味かったのかどうかは知らない)

さて、ところ変わって中国、香港、カナダ。
私が広州に渡ったのは90年代初頭だが、当時の中国の牛乳は色だけは牛乳らしく白かったが、お味の方は半分は水なんじゃないかと思うほど薄く、スキムミルクだと思ってそのまま飲むならまだしも、コーヒーや紅茶に入れるには全く適さなかった。まあ、当時の広州ではまともなコーヒーも紅茶も手に入りはしなかったから、普段は専らよりどりみどりの中国茶を飲んでおり、水のように薄い牛乳でも別段困りはしなかったが。ちなみに当時はヨーグルトもさらさらの液体で、牛乳同様テトラパックに入っており、買うとスプーンではなくストローをつけてくれた。米国から来たばかりの留学生などは、「なんでヨーグルトにストローなんだ?」と、細いプラスチック製のストローを、さんざんひねくりまわしていたものである。

さて、90年代半ばから、ついこの間まで住んでいた香港。
さすが英国植民地だけあって、牛乳はごく普通にスーパーで売られていた。2年間、水のように薄い中国牛乳を飲んだ後だったので、引越した当初、香港の牛乳の濃厚さは新鮮だった。
香港では我々は、もっぱらロングライフ牛乳(UHT滅菌法牛乳)を愛飲していたが、それは雪だるまが毎日毎日大量の牛乳を使用(朝のシリアル、夜のプロテインドリンク)するからで、高い鮮奶(UHT処理を施されていない要冷蔵の牛乳)は家計に響きすぎて買えなかったのである。ただし雪だるま用の牛乳は脂肪分ゼロの脱脂乳で、私はそれとは別に普通の牛乳も毎週1本ずつ、買っていた。コーヒーや紅茶に入れるには、脱脂乳では薄すぎて何とも頼りない味になってしまうからである。ちなみに香港で主流の牛乳パックは、日本のとはやや形が違う。今となっては手元にないので大きさは測りようがないが、日本の牛乳パックは底面がほぼ正方形であるのに対し、香港のは横長の長方形で、その分、筒の高さは香港の方が低い。容積は大部分、日本同様1リットルなので、大きさが違ったからと言ってどうということはないが、香港に移り住んだ当初は「ふうん、所変われば品変わる、かあ」と、なんだか寸詰まりのような牛乳パックをしげしげと眺めたものだった。

そしてカナダ。
近代まで牛乳を飲む習慣がなかった中国、日本と異なり、ここは牧畜民族が原住民を追い払って作った国。当然、市場には乳製品があふれている。バター、チーズは言うに及ばず、牛乳だって脂肪分の量により、0%、1%、2%、3%と、少なくとも4種類ある。よりどりみどりである。余談だが、クリームもコーヒー用の5%、10%から、菓子やベリー類にかける15%、料理、ホイップ用の35%と4種類ある。しかも同じ35%でも、料理用、ホイップ用、オールドファッションスタイルと3種並んでいたりするので、買う時けっこう迷う。
話を元に戻して牛乳だが、今ウチで買っているのは、シリアル、プロテインドリンク用の脂肪分0%のものと、私のコーヒー、紅茶用の2%のもの。2%の方は使用量が少ないので、日本の牛乳と同じ1リットルの紙パック入りのを買っているが、0%の方は毎週プラスチックバッグに入った4リットル入りのを1つか2つ買っている。

このプラスチックバッグ入りの牛乳はどうやらカナダ独特の形態らしく、ようつべなどを検索すると、新たにカナダに移り住んだ人用に(?)、その使用方法が手取り足取り説明されている。おもしろいので、ひとつ最も詳しいと思われるものを貼り付けておく。





ちなみに、ここに登場するミルクホルダーは、ごくごくシンプルなものから牛や花の絵が付いたちょっと洒落たものまで、さまざまなデザインのものがスーパー等で売られている。値段は1ドルから、高くてもせいぜい5、6ドルだろう。ウチではこのヴィデオの方同様、ダラーショップで買った何の飾りもない白いホルダーを愛用しているが、過去3年間、日々の酷使に耐え、立派にその任務を果たしている。3年たってもどこも傷んでいないから、もしかしたらこのまま死ぬまで使えるんじゃないかという気もするが、たとえ使えなくてもどうせ1ドルである。代わりが買えないことはあるまい。

もひとつちなみに、バッグをホルダーに入れる時、肝心なのはホルダーの底を何回かトントンと叩いてバッグをホルダーに定着させることである。これをしないと、ホルダーを傾けた拍子にバッグがぽろんと飛び出したりして大惨事になる。義弟ジェリーは一度面倒くさがってこれを省き、テーブル一面に牛乳をこぼしたそうである。トントンを馬鹿にしてはいけないのである。
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Amei

ムスコは舌が肥えてロングライフ牛乳を飲んでくれなくなりました。よって牛乳代が家計を直撃しています。だいたい三日で4L必要なのです。毎日会社を出るときに「牛乳まだあったっけ…?」と考えるの。ロングライフの時は買い置きできたけど、鮮奶はできないので。なお現在の相場は一本23-29ドルぐらいです。
  • URL
  • 2014/10/31 14:16

loutra

うーん、やっぱりね、、鮮奶は高いのよね。LL牛乳の2、3倍はする。でも未来を担う青少年としては、ここはやはり鮮度の高い鮮奶と行きたいところでありましょう。それにしても3日で4リットルとは、結構な量ですな。持ち帰るのが大変だ。
  • URL
  • 2014/11/02 05:04

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らうとら

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ドロシー・L・セイヤーズ、ローリー・R・キング、P.D.ジェイムズ、ディック・フランシス、水村美苗、高村薫、戸塚真弓、ヘレン・ミレン、シャーロット・ランプリング、ソフィ・マルソー(40代以降に限る)、ヘレナ・ボナム・カーター、アンジェリーナ・ジョリー、三代目金馬、小さん、枝雀、エンヤ、クイーン、ドゥルス・ポンテス、マドレデウス、J・S・バッハ、ちあきなおみ、トケイ・ピノ・グリ、アール・グレイ、自転車(冬季を除く)、あらゆる犬と猫
以上、私を幸せにしてくれる方々(敬称略)

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