辞書と文法書は必須です

  • 2014/12/11 21:12
  • Category: 言葉
この頃とみに不思議に思っているのは、フランス語教室に来る生徒のうち半分くらいが辞書を持って来ていないことである。何しろ初級クラスなのだから、辞書なしで何でもすらすらわかります!なんてレベルの人は一人もおらず、中には本当にABCから始めたばかりで、出会う単語の9割は新出単語という人もいるのに、それでも辞書を持っていない。

では何を使っているのかというと、スマホである。スマホにダウンロードした辞書アプリ、またはGoogle Translate あたりを使って、わからない単語に出会う度に、ちらちら確認しているのだ。しかしこのスマホ辞書、隣に座っているJちゃん(中国人)が使っているので私も画面を見たことがあるが、ただちょっと意味を知りたいだけの時ならともかく、外国語を学習する際の辞書としては全く十分でない。だって、わからない単語を入力した時、画面に出てくるのはその単語の訳として適当と思われる2、3の訳語だけ。単語の詳しい説明やその単語を使った文例はないし、文法上の注意事項も載っていない。とりあえず最も一般的と思われる意味がわかるだけの、本当に一時の間に合わせなのだ。これでは、外国語の“学習”には全く役に立たない。

なぜかというと、言語Aにおけるある語と、言語Bにおけるその訳語は、大体の場合、下図のようにその意味の一部が重なるだけで、その意味・使い方が完璧に重なることはまずなく、学習にあたっては、まずどこが重なってどこが重ならないのか、それをはっきりさせることが肝要だからだ。これをせずに簡便な辞書の訳語を鵜呑みにしてA=Bなどと丸暗記すると、あとでとんでもないことになる。

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たとえば、卑近過ぎる例で恐縮だが、トイレに当たるフランス語が知りたくて辞書を引いたら、“toilettes(toiletteの複数形)”と出ていたとする。そこで複数と単数の違いにあまり注意を払わず(日本語や中国語のように、語の単複の区別にやかましくない言語を母語とする人は、ついこれをやりがちである)、toilette(←いつのまにか単数になっている)=トイレと覚え込むと、後々、別の文章の中で、たとえば“…elle aimait la toilette…”というような文章に出会った時に、「彼女はトイレに行くのが好きだった」というような、とんでもない解釈をして、周囲を爆笑の渦に巻き込むことなる。笑いを取るのは楽しいが、それも程度問題。爆笑が失笑にならないうちに、なんとかせねばならない。(ちなみに、上記の文は“彼女はおしゃれをするのが好きだった”という意味である。toiletteの最も一般的な意味は、洗面、身じまい、装い、身なりといったところで、複数のtoilettesになって初めて用を足す場所、トイレになるのである)

というような例が多々あるから、外国語の学習に当たっては辞書は不可欠。本気で勉強する気なら、まず辞書と文法書の一冊くらいは用意しないことには話にならないと思うのだが、冒頭にも書いたようにクラスの半分くらいは辞書を持って来ない。

確かに現在一番簡便な電子辞書は、だいたいどの国でも米ドル換算で200~300ドルくらいするから、おいそれとは手が出せないというのはわかる。しかし従来の紙の辞書なら、その1/10くらいの値段で手に入るはずである。携帯するにはちょっと重いし、引くのに手間はかかるが、引いた語の前後を読んで楽しむということもできるし、引こうと思ったら電池切れなんてこともない。古来、人々が使ってきた形の辞書なのだから、役に立たないはずはないのである。次回、故国に里帰りした際には、ぜひ1冊仕入れて来ていただきたいものである。ついでに文法書なども購入すれば、なおよろしい。当地でも西仏/仏西あたりなら辞書は手に入るだろうが、それはフランス語話者がスペイン語を勉強するための辞書。スペイン語話者がフランス語を勉強するための辞書ではない。どちらが母語かによって、わからない点、解説が必要な点は全く違うのだから、「西仏ならどれも同じだろう」なんて思うのは、大きな間違いである。いわんや、アラビア語/フランス語の辞書など、この田舎町では影すら見えない。故国に帰った時に、買って来るしかないのである。

辞書も文法書もなしに外国語を勉強しようなんて、海図と羅針盤どころか、櫂すらなしに海に漕ぎ出すようなもの。何年水の上にいようと一向に先に進めず、海岸線から10m位のところで波に揺られているだけになってしまうのは、当たり前である。かく言う私なぞ、海図と羅針盤は立派なものを持っているが、櫂が(つまり耳と舌と頭が)すこぶる貧相なもので、なかなか先に進めない。ついでに船自体も老朽化しているので、どっかに着く前に壊れるかもしれない。健闘虚しく、あえなく沈没である。まあ築60年近い老朽船なのだから、それも仕方なし、というところか。
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ドロシー・L・セイヤーズ、ローリー・R・キング、P.D.ジェイムズ、ディック・フランシス、水村美苗、高村薫、戸塚真弓、ヘレン・ミレン、シャーロット・ランプリング、ソフィ・マルソー(40代以降に限る)、ヘレナ・ボナム・カーター、アンジェリーナ・ジョリー、三代目金馬、小さん、枝雀、エンヤ、クイーン、ドゥルス・ポンテス、マドレデウス、J・S・バッハ、ちあきなおみ、トケイ・ピノ・グリ、アール・グレイ、自転車(冬季を除く)、あらゆる犬と猫
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