モントリオール/アンジェリーク

この地に長くお住いの方によると、不景気のせいでモントリオールの街はさびれていく一方のようだが、この間叔父さん夫妻の金婚式のお祝いで出かけた時見たモントリオールは、私の目には全く違う風に映った。

高速を降りてから、目的のレストランを目指して、まっすぐ Rue Saint Denis を延々セント・ローレンス川近くまで下ったのだが、このモントリオールでも繁華な通りのひとつリュ・サン・ドニは、道の両側に古い建物がそのまま残り、それが店舗やレストランになっている。


This photo of Auberge le Jardin d'Antoine is courtesy of TripAdvisor


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写真はTripAdvisor さんからお借りした。深謝。

それが最近のクロームとガラス、あるいはコンクリートの箱に色を塗り、看板を掛けただけの郊外型店舗、レストランばかり見ている眼には、大変新鮮だった。パリやロンドン、あるいは京都など、古くからの街並みが残っている歴史ある街に暮らす人にとっては、当たり前のことかもしれない。しかし、やけに整然ときれいで西欧的で、ほんの100年ほど前には木と土と紙でできた建物に住んでいた片鱗すら感じさせない東京の繁華街や、古い建物がどんどん新しい建物に取って代わられ、4、5年も経つと昔の姿を思い出すことすら困難な香港を見慣れた目でこうした街並みを見ると、ああ、やはりたった4~500年でも、この街には歴史があるのだと思わずにはいられない。古い建物には古い記憶が染みつき、見るたびにそうした記憶を想起させる。そして記憶が想起され記憶されていくことによって、歴史が存在し出すのだ。記憶がないところに歴史など存在しない。だから古い建物が残っている/を残すということは、記憶を歴史を保存するということなのだ。

古い建物に住み続け、利用し続けるのは、容易ではないだろう。現在とは違う生活のために造られた建物なのだから、間取りも違えば寸法も違う。水道や下水の配管、電気の配線も、今の目から見れば機能的とは言えないだろうし、管や配線自体も古びて、しょっちゅう修理が必要だろう。それでもそうした建物に住み、あるいは店舗として利用し続けるのは、その不便や不都合に耐えるだけの価値があることだと思う。以前にも書いたが、街というのはそこに住む人々の精神の外在化なのだ。記憶を呼び覚ます建物に囲まれて暮らすのと、まっさらの四角いコンクリートの箱に囲まれて暮らすのでは、精神のありようが違ってくる。街が人を生むのだ。

人と言えば、レストランからの帰り、今度は Rue Saint Laurent を高速に向かって上ったのだが、夜10時過ぎ、零下の気温の中で、たくさんの若者たちがクラブの外で行列を作っていた。近くにUQAM(ケベック大学モントリオール校)があることから学生が多く、カルチエ・ラタンとも呼ばれるこの辺りだから、若者が多いのは当たり前だが、それにしたって気温は零下10度前後、風も吹いている。それなのにあちこちのクラブの前で、寒さに身をすくめながらも仲間と談笑しながら待ち、ドアが開くと嬉しそうにどっと中に入って行く。年月にさらされた古い石造りの建物と、ピアスだらけの顔の若者たちとの対比が、車の中から外を眺めている外来者の私の目には、ことのほか面白かったし、熱気を感じた。さびれたといってもモントリオール、まだまだ元気な部分もあるのだ。

そして実はパーティでも、私はその若い熱気に当てられた。古い造りの、レストランというよりはビストロといった雰囲気の店だったのだが、そこでのまずまずの食事の後、出席者はぞろぞろと店の反対側の小部屋に移動。叔父夫妻の娘(モントリオールっ娘、飲食業界遊泳歴×十年)が、知り合いの歌手を呼んでいたのである。食事の間から、ちらちら「なんだか、若い見慣れない子がいるな。B(娘)の友達かな」と思っていたのだが、確かに友達は友達でも、彼女はプロの歌手だった。ギター、コントラバス、パーカッションなどから成るバンドと共に、彼女が歌ったのは「Hymne à l'amour」「La Vie en rose」と言ったピアフの古いシャンソン。私は金婚式のパーティだから、その主題と出席者(平均年齢60歳超)に合わせてこの選曲なのかと思ったが、あとで調べるとどうやら彼女は専門のピアフ歌いらしく、あるヴィデオでは、敷石の上に「Signé Piaf」と題されたCDを並べ、そこでピアフを歌っていた。

彼女の歌い方は甘く、切なくというより、むしろエネルギッシュに攻撃的で、特に「Padam Padam」では、ほとんどパンクの歌い方のように聞こえ、部屋が小さかったせいもあって、スピーカのまん前に座ってしまった叔母様方の中には「ちょっとねえ」という人もいたが、私には最初の曲から彼女の歌い方が面白くて、目が輝やいてしまった。まあ、生の歌を聞くのは本当に久しぶりというせいもあったかもしれない。

途中で彼女はピアフだけでなく、スペイン語や英語の歌も歌ったが、歌い方はやっぱりエネルギッシュで、私はそうした彼女の歌を聞きながら、「この人はファドを歌ったら、ものすごく似合うかもしれない」と思っていた。彼女の「Canção do Mar」なんか、聞いてみたいなあ。

あんまり楽しかったので、最後、帰り支度をしている彼女のところへ行って大いに楽しんだ旨伝え、カードを貰って来た。そうでもしないと名前を覚えられそうもなかったからである。彼女の名前はAngélique Duruisseau 。ご興味がおありの方は、下のヴィデオをどうぞ。“もの凄くうまい”というわけではないが、間近で聞くとヴィデオとは違ってなかなか魅力的なのである。



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ドロシー・L・セイヤーズ、ローリー・R・キング、P.D.ジェイムズ、ディック・フランシス、水村美苗、高村薫、戸塚真弓、ヘレン・ミレン、シャーロット・ランプリング、ソフィ・マルソー(40代以降に限る)、ヘレナ・ボナム・カーター、アンジェリーナ・ジョリー、三代目金馬、小さん、枝雀、エンヤ、クイーン、ドゥルス・ポンテス、マドレデウス、J・S・バッハ、ちあきなおみ、トケイ・ピノ・グリ、アール・グレイ、自転車(冬季を除く)、あらゆる犬と猫
以上、私を幸せにしてくれる方々(敬称略)

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