私有地

散歩の途中やドライブの途中で、林の中に「Terrain Privé(私有地)」という看板を見かけるたびに、「やれやれ、なんと所有権意識(および縄張り意識)に富んだ人であることか! こんな原生林にまで、こんな色気のない看板を立てなくてもよかろうに・・・」と、土地の所有者のガリガリ亡者ぶりに鼻白む思いで、緑や茶の自然色の中でいやでも目に飛び込んでくる赤や黄の看板を味気なく眺めたものだったが、先々週あることが起きて、やっとこれら看板を立てた所有者たちの気持ちが私にもわかった。

以前にも書いたかもしれないが、裏の林はウチの敷地との境から10mばかりはウチの所有となっている。この家を建てた前オーナーが、プライバシーを確保するために後から買い足したのである。ただし後から買い足したので、ウチの敷地との境にはシーダーの生垣などがあって、一見、ウチの所有地には見えない。原生林なので木々もランダムに生えているし、あくまで裏に広がる、誰の所有とも知れない原生林の一部にしか見えないのである。

が私たちはそういう状態であることを全く気にしていなかった。ウチの所有地であるので、生垣を擦り抜けて、ウチの庭に降り積もった落ち葉を捨てに行ったりはしていたが、林はあくまで林。自然のままに放ってあって、夏、子供達が声高に喋りながら林の中をガサガサ抜けて行こうと、冬場クロスカントリースキーの人がシャッシャッという音と共に滑り抜けて行こうと、私たちは「あれ、誰かが林を通り抜けているよ」と思うだけで、別にだからどうしようとかは全く考えなかった。林が林として人々に利用されているのなら、林を林のままにしておきたい私たちとしては、全く何の問題もなかったからである。

ところが先々週、週末なのに朝から何だかうるさいなと思っていたら、道を挟んでウチとは斜向かいになる某工作機械賃貸業者の裏庭に小型ショベルカーが入り、その裏庭に積み上げられた大量の雪を裏の林に捨てていた。最初はウチの所有ではない部分に捨てていたので、「あれ、裏の林は賃貸業者の所有地だったのか?」と思いはしたが、なにしろ他人の家のことなのでそのまま放っておいた。人が自分の敷地に積もった雪を、自分の所有地に捨てている限り、他人の私が口を挿む余地はないからである。

しかし、天気がよかったその日、午後、庭仕事をしていた私がちらりそちらを見ると、なんだかショベルカーが随分ウチの方へ近づいている。どう見てもウチの林に雪を捨てている雰囲気なのである。雪とは言っても裏庭に積み上げられた雪は、冬の間ガチガチに凍りついた硬い、重たい雪である。だからこそショベルカーで作業しているわけで、自然に降り積もる雪とはわけが違う。そんなものをどっさ、どっさと林に捨てられては、若木などひとたまりもなく押しつぶされてしまうし、成長した木にとってもいいことなど何もない。それでなくても林の一部が伐り開かれて、アパートが建ち始めたのを苦々しく思っていた私は、「これ以上、木を、しかもウチの木を、傷め付けられてたまるか!」と庭仕事姿のまま生垣を抜けて林に出、作業中のショベルカーに向かって突き進んだ。そして近付いてくる私を認めて、こちらを見たお兄さんに「失礼だが、ここからここまではウチの土地である。よろしく」と告げ、にっこり微笑んで帰って来た。お兄さんは「それは失礼。知らなかった」という感じで了解し、以後は境界杭の向こうへ捨ててくれていたが、当然ながらすでに捨ててしまった分についてはそのまんま。私が気づくのが遅かったのが悪いのだが、その後行ってみると、道路沿いの若木が1、2本、半分方雪に埋もれて傾いでおり、真ん中辺の枝など雪に押されて折れかかっていた。枝を助けたくて掘り出そうとしたのだが、雪が固くて人力ではまったく歯が立たず、泣く泣く諦めた。

2週間経ち、日陰の雪も全部融けた今日行ってみると、どうやら捨てられた雪は土砂混じりだったらしく、ウチの林も含め、裏の林の道沿いには、こんもりした砕石まじりの土の山が、4つばかり出来ていた。土の下になってしまった若木や下草は全滅である。もちろん土であるから、そのうちぼつぼつと雑草が生え始めるだろうが、道沿いに土砂の山ができているのは何とも醜い。せめてウチの林の山だけでもスコップで突き崩し、平らに均したいと思うが人力でやるには結構な重労働。考えただけで筋肉痛になりそうだ。

それにしても、裏の林。これ以上、何かされないために、「私有地」の看板でも立てた方がいいのだろうか。たかだか10mぽっちの敷地に「私有地」の看板なんて、ほんとに味気なくていやなのだが、土砂を捨てられたり、木を傷めつけられるのはもっといやだ。どうして林を林のまま、そっとしておいてくれないのだろうか。

って、私のウチも元はと言えば林を伐り開いて建てた家。自分ちは建てておいて、人が同じことをするのは嫌がるのは、まったくもって自分勝手な言いぐさでしかないのだが。
スポンサーサイト

Pagination

Trackback

Trackback URL

http://gaudynight.blog.fc2.com/tb.php/1681-9e900a4c

Comment

Post Your Comment

コメント:登録フォーム
公開設定

Utility

プロフィール

らうとら

Author:らうとら
ドロシー・L・セイヤーズ、ローリー・R・キング、P.D.ジェイムズ、ディック・フランシス、水村美苗、高村薫、戸塚真弓、ヘレン・ミレン、シャーロット・ランプリング、ソフィ・マルソー(40代以降に限る)、ヘレナ・ボナム・カーター、アンジェリーナ・ジョリー、三代目金馬、小さん、枝雀、エンヤ、クイーン、ドゥルス・ポンテス、マドレデウス、J・S・バッハ、ちあきなおみ、トケイ・ピノ・グリ、アール・グレイ、自転車(冬季を除く)、あらゆる犬と猫
以上、私を幸せにしてくれる方々(敬称略)

カテゴリー+月別アーカイブ

 

FC2カウンター