いまだよくわからない

  • 2015/06/09 21:25
  • Category: 雑記
例の雪だるまが通訳として一緒に病院に行っているクラスメートの状況が芳しくない。
昨日はとうとう余命宣告されてしまった。
一応、化学療法の説明も受け処方箋も貰ったが
(従来の点滴による投与ではなく、錠剤服用型なので)
彼女は化学療法を受けるより、中国へ帰りたいという。

確かに化学療法によるさまざまな副作用に苦しんだあげく
伸びる余命が3か月では、治療を受けることに消極的になるのも
無理はない。
今だって痛みはあるし、肝臓が腫れて他の臓器を圧迫しているので
何とも言えない不快感があって物を食べる気にもなれないし
充分不愉快な状態なのだ。
それでも動こうと思えば動けるし、好きなもの、食べやすいものなら
食べることもできる。

しかし化学療法を始めれば、始終嘔吐感に悩まされ、下痢や便秘に苦しみ
それらを抑えるために、抗がん剤と同時に吐き気や下痢を緩和する薬も一緒に飲み
皮膚の乾燥を和らげるために始終保湿クリームを塗らなければならないような毎日になる。
それでも、それで治るのなら耐える甲斐もあるが、医師からははっきり
「治すことはできない」と言われているのだ。
ならば、何のために苦しむのだ?
その苦しい期間を3か月伸ばすため?

もちろん3か月とか6か月とかは単なる統計上の数字で
全ての人がきっかり3か月、きっかり6か月寿命が尽きるわけではない。
3か月と言われても、1年以上生きる人もいるし、
余命6か月と言われてから、すでに数年経っている人もいる。
だから彼女の場合も、治癒とはいかなくても寛解する可能性が全くないわけではない。
しかし今の彼女の気持ちとしては、その可能性に賭けて
ここで、このほとんど言葉の通じない、友達もろくにいない
好きな食べ物もない土地で
毎日を一人、家でテレビを見ながら過ごすくらいなら、
彼女が生まれ育った海辺の街に戻って
友達や家族に囲まれ、新鮮な海鮮料理をたとえ一口にせよ楽しみ
考えなくても喋れる言葉、半分眠っていようと聞き取れる言葉で
言いたいことを言い、伝えたいことを伝えて暮らす方が
どれほどましか、ということなのだ。

私が彼女の立場なら、私だってそう考える。
そしてさっさと、行きたいところに行く。
戻りたいところに、戻る。

昔むかし、若かった頃、私は死にたいと思ったことはあっても、
生きたいと思ったことはなかった。
死ぬのは少しも嫌なことではなかった。
英語でよく人が言う“Enjoy life !”ということがわからなかった。
私にとって人生というのは、為すべきことを為すところ、
しなければならないことをするところ(学生の間は勉強、長じてからは仕事)で
楽しむところではなかったのだ。
毎日が楽しくなかったわけではない。
わたしは我儘勝手な人間であるから、
その“しなければならないこと”をしながら
“自分がやりたいこと”もしたが
だからといって“生きていることが楽し”かったわけではない。

それが変わって来たのは、ここ最近である。
仕事を辞め、毎日ぼちぼちと好きなことだけする生活になってしばらくしてから
やっと「あれ? なんかちょっと楽しいかも」
「もうしばらく、この世界を見ていたいかも」と思い始めたのだ。
そして死ぬことを、時々少しだけ残念に思うようになったのだ。

これはあれ、「持っているものは欲しくなくて、持っていないものは欲しい」という
人間の変わることなき性質の発露なのだろう。
つまり若い頃は、なにしろ若くて元気で死ぬ心配などほとんどなかったから
「生きていたい」などと改めて思う必要はほとんどなく
むしろ生きていることは面倒くさいことだったが
50歳を過ぎて、いろいろ病気もし、身体のそこここが不調になってくると
=「生」を失いかけている状態になってくると
無い物は欲しいという天邪鬼な性質が頭をもたげ
「死ぬのは惜しい」と、わが脳みそが思い始めたのだろう。

いつかオトモダチの一人が書いていた
「世界中で、学校に行っている子供は学校に行きたくないと思い、
学校に行けない子供は学校に行きたいと思っている」のと同じなのだと思う。

コトの軽重が違うって?
いや、同じですよ。
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隣町から

こちらに来て24年が過ぎました。移民当時、何に驚き、何を考えていたのか忘れてしまったのですが、らうとらさんのブログに、私からみればうらやましいような豊かな人生経験を経ての異文化との新鮮な出会いが伝わり、文学作品を読んでるようです。お互いに、生きてる事をなりなりに楽しいと味わえる日々を過ごしましょうね。それにしてもなんという文章力。コメントあまりしませんが、いつも楽しみにしております。
  • URL
  • 2015/06/12 20:17

らうとら

隣町さんへ
お返事遅くなりまして申し訳ありません。こちらこそ隣町さんのブログを楽しみに、しょっちゅう訪問させていただいています。私の方は読み逃げばかりで、コメント残していなくてごめんなさい。
文章力(!)も最近ますます日本語が怪しくなっていて、四字熟語の順番を間違えたり、漢字どころか時には「てにをは」さえ間違えるというひどい有様になっていますが、日本語のほかに自由に操れる言語はありませんので、死ぬまで何とかこれで頑張ります。
レタス、うちも芽が出てきました。隣町さんちのレタス、おいしそうですね。うちも早く食べたーい!
  • URL
  • 2015/06/14 22:08

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らうとら

Author:らうとら
ドロシー・L・セイヤーズ、ローリー・R・キング、P.D.ジェイムズ、ディック・フランシス、水村美苗、高村薫、戸塚真弓、ヘレン・ミレン、シャーロット・ランプリング、ソフィ・マルソー(40代以降に限る)、ヘレナ・ボナム・カーター、アンジェリーナ・ジョリー、三代目金馬、小さん、枝雀、エンヤ、クイーン、ドゥルス・ポンテス、マドレデウス、J・S・バッハ、ちあきなおみ、トケイ・ピノ・グリ、アール・グレイ、自転車(冬季を除く)、あらゆる犬と猫
以上、私を幸せにしてくれる方々(敬称略)

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