『Bande de filles』

  • 2015/07/20 08:45
  • Category: 映画
“フランス人”という言葉から、人が頭に思い浮かべるのはどんな人だろう? たぶん白人。ブロンドかシャタンの髪。軽いノリの洒脱なタイプ、あるいは皮肉っぽい理屈屋、女性ならキュートでコケティッシュ、または気位の高そうなマダムか。

『Bande de filles』(英題: Girlhood)に出てくるフランス人たちは、このどれでもない。
まず彼らは白くない。髪も金色や栗色ではない。
黒い皮膚に黒い髪、濡れたように光る黒い目だ。

その“黒い”彼らは、パリ郊外と思われる高層団地に住んでいる。悪名高い“Banlieue(バンリュー:郊外)”だ。もともとは単に“郊外”という意味でしかなかったこの言葉が、“移民”“貧困”“犯罪”という固定化したネガティブなイメージで使われるようになったのは、いつからだろう? 70、80年代、大都市近郊に大量の高層住宅が建設され、そこに旧仏植民地からの移民が大量に住み始めた頃からか。コンクリート舗装された敷地の中に、同じくコンクリートの建物、灰色の四角い箱が、すいっ、すいっと空に向かって立っている。維持に手間と費用がかかる木々や花々は、ほとんど見えない。装飾らしきものは、同じくコンクリートで作られた噴水とスケートボードパークくらいだ。灰色の敷地の中の灰色のオブジェ群。

主人公のマリエム16歳も、母親、兄、二人の妹と共にそこに住んでいる。母親はホテルの掃除係として働き一家を支えているが、彼女が留守の間、妹たちの面倒を見るのはマリエムの役目だ。2つ、3つ年上らしい兄は何をしているのか。働いている様子はない。だがそれでも彼は家の中のただ一人の“男”で支配者だ。女で年下であるマリエムたちは彼に従うのが当然であり、その規範から逸脱することは許されない。体力、体格的に兄に敵わないマリエムは、理不尽だと思っても従わざるを得ない。

マリエムは学校へ行き、女子サッカーのチームにも属しているが、学校でもチームでも彼女の周りにいるのは全部彼女と同じアフリカ系だ。鮮やかな顔立ちの、黒い皮膚の女の子たちが画面にあふれ、それだけ見ていると、ここがフランスなのだか西アフリカのどこかなのだか判然としなくなる。そのくらい彼女の生活圏には白人がいない。社会の主流から切り離された、移民だけの世界。

だから、この映画に出てくる白人は、すべて“部外者”として描かれる。小遣い稼ぎのカツアゲの相手、彼女がドラッグを“配達”する先で、賑やかにパーティに興じているのは白人だが、彼らはあくまで別の世界の住人。彼らの生活と彼女の生活は交わらない。それを証拠に、パーティに出入りするために着飾ったドレスやかつらは、アパルトマンを出たとたん、脱ぎ捨てられる。

学校で、普通高校に行きたいと懇願する彼女に「成績が十分でない」と言って職業高校を勧める学校教師に至っては、顔すら画面に出て来ず声だけだ。それは教師という個人ではなく、ただ彼女の前に立ちはだかる壁、彼女を拒絶する社会の壁なのだ。

行きたい学校へは行けない。家では兄が支配者で、押さえつけられる。学校をドロップアウトしてギャングの仲間に入ってみるが、そこでも男のボスがトップというヒエラルキーからは逃れられない。BFのイスマイルは「結婚しよう」と言ってくれるが、同じティーンエイジャーの彼と結婚し、16、7歳で子供を持ったとして、その先いったいどんな未来があるというのか? 

最後、彼女は1人で暮らしていたアパルトマンから母や妹たちが暮らす郊外の団地に戻り、入り口のインターコムを鳴らすが、結局、開けかけたドアをまた閉めて立ち去る。団地の中の広場、ブルーグレイの空の下、遠くにパリの高層ビル群を眺める見晴らしのよい場所で、彼女は「どこにも行く場所がない」と呟く。

見終わって、社会の低層に置かれ、そこから抜け出す道のない移民たちの閉塞感に、じわじわと蝕まれるような映画だ。監督は Céline Sciamma。私は彼女の『Tomboy』が大好きだったのだけれど、今回のこの映画もいい。楽しくはないが、いい。


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ドロシー・L・セイヤーズ、ローリー・R・キング、P.D.ジェイムズ、ディック・フランシス、水村美苗、高村薫、戸塚真弓、ヘレン・ミレン、シャーロット・ランプリング、ソフィ・マルソー(40代以降に限る)、ヘレナ・ボナム・カーター、アンジェリーナ・ジョリー、三代目金馬、小さん、枝雀、エンヤ、クイーン、ドゥルス・ポンテス、マドレデウス、J・S・バッハ、ちあきなおみ、トケイ・ピノ・グリ、アール・グレイ、自転車(冬季を除く)、あらゆる犬と猫
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