じゅうはちのきゅう

  • 2015/08/09 11:05
  • Category: 言葉
日本語学習中のV君は、5月だったかにここから100kmばかりの市に異動になり、勤務体系も4日働いて3日休みというようなシフトに変わったため、ウチに来るのも毎週日曜というわけにはいかなくなった。

それでも先週の日曜には久しぶりに「こんにちは!」と現れ、特に錆びついたとは思えない日本語で、2時間ばかり喋って行った。その時、何の話からだったか「どうき」の同音異義語の話になり、辞書にいくつか並んだ中で、V君が「“動機”と“同期”は知っているが、“銅器”は今まで見たことがない単語だ」というので、“銅器”というのは銅(cuivre)で作った器や道具だと簡単に説明し、ついでに、“銅器”という単語を現代の日常生活で使うことは、たぶんほとんどない。この単語が必要になるのは、おそらく歴史関連の文章を読む時で、その時には“青銅器”とか“石器”とか“鉄器”とかいう単語も出てくると思う、と付け加えた。

V君は、“青銅”はbronze、“石器”というのは石(pierre)で作った器具や道具のことで、発音は“せっき”というようなことをメモった後で、「そういえば石器時代(L’âge de la pierre )には、新しいのと古いのがありますよね? 新しいのは“新石器時代”、古いのは“古石器時代”ですか?」と聞くので、「いや古い方は“旧石器時代”です。“新旧”の“旧”ね」と返したら、「きゅう?」と、どの漢字だか適切な漢字が浮かばないという顔をした。

こういう場合は説明するより書いた方が早いので、手近の紙に「旧」と書いて見せると、「ああ、じゅうはちの“旧”ですか! それなら知っています!」と顔をほころばせたが、今度は逆にこちらが「じゅうはち?」とけげんな顔になった。V君はけっこういろいろな漢字を知っていて、意味がわかり、また正しく読めるが(ひとつの漢字に音訓合わせて複数の読み方がある日本語の漢字を、正しく読むのは相当に複雑な作業なのである)、その読みや意味を記憶するために時々面白いこじつけをしていて、そのなかには「はあ?」というようなのもあるのである。なのでこの「じゅうはち」もその伝かと思い、「“じゅうはち”って何なの?」と聞いたら、V君、にこにこしながら「だってほら、これ“じゅうはち”でしょう?」と紙に数字の1と8を書いて見せてくれた。

ただしV君が書いた「8」は、普通の手書きの「8」のように○が2つくっついた形ではなくて、□が2つくっついた形、つまりスマホや各種家電に見られるようなデジタル数字の「8」なのだった。確かにこう書けば、「18」は「旧」とそっくりである。

ははあ、なるほど、いや、確かに。しかし私はこの日、この時まで、「旧」が「18」に見えたことはなかったのである。日本語を読み書きして50年、漢字は私の中で完全に「文字」として認識されていて、漢字が意味を離れた「記号」、「図形」として認識されることはまずないので、漢字を線や形に分解して見るという視点がないのである。

しかし長年の習慣から生まれた、そういった半ば自動的な認識システムを一時外し、改めて図形として漢字を眺めてみると、いったいなんでこの形とこの音が結びついているのか、奇怪至極な漢字が結構ある。(もちろんすべての漢字とその読みは人が作り出したものなのだから、奇怪というならすべて奇怪なのだけど) たとえば「品川」の「品」。なんで「口」が3つで「しな」なのだ?
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ドロシー・L・セイヤーズ、ローリー・R・キング、P.D.ジェイムズ、ディック・フランシス、水村美苗、高村薫、戸塚真弓、ヘレン・ミレン、シャーロット・ランプリング、ソフィ・マルソー(40代以降に限る)、ヘレナ・ボナム・カーター、アンジェリーナ・ジョリー、三代目金馬、小さん、枝雀、エンヤ、クイーン、ドゥルス・ポンテス、マドレデウス、J・S・バッハ、ちあきなおみ、トケイ・ピノ・グリ、アール・グレイ、自転車(冬季を除く)、あらゆる犬と猫
以上、私を幸せにしてくれる方々(敬称略)

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