『État de siège』

  • 2015/10/31 11:03
  • Category: 映画
70年に実際に起きた事件がモデルとは言え、そこはそれ映画のことであるから、描かれたことが全部史実かどうかはわからない。しかし見終わっての感想は「いかにもありそうな話」で、60年代から70年代にかけての中南米諸国と米国との関係に、改めて目を向けさせてくれる映画ではあった。

舞台は70年代初めのウルグアイ。都市ゲリラグループ“トゥパマロス”が、米国籍の民間人サントーレとブラジル大使館領事を誘拐する。しかしトゥパマロスによる尋問の過程でこちらに明らかになるのは、民間人と見えたサントーレは実はFBIエージェントで、CIAのアドバイザーも務める、対暴動活動の専門家であったこと。彼は交通・通信関係の技師という肩書を隠れ蓑に、実際はウルグアイ政府や警察に反政府勢力に対する諜報活動、爆発物の仕掛け方や自白を引き出すのに効果的な拷問の方法などを指導していたのだ。

トゥパマロスの尋問に対しサントーレは、終始「私はただの民間人だ」とCIAの関係者であることを否定し続けるが、政府内部や軍、警察内部にもメンバーを持つトゥパマロスの周到な情報収集により、彼の否定はひとつひとつ覆されていく。

私が最も面白いと思ったのは、この尋問の場面だ。ゲリラや軍によくみられる、暴力や拷問により相手の自白を引き出す凄惨な尋問とは全く異なり、言葉つきは丁寧で冷静、人質は拘束されてはいるが、身体的苦痛は加えられていない。その中でゲリラ側は、注意深く集められた資料を基に理詰めでサントーレの嘘を突き崩していくのだ。

たとえばサントーレに1枚の写真を見せ、「この2人の人物を知っているか?」と聞く。写真は何かの会議の場面を撮ったものらしく、制服姿の男たちが何人か写っている。サントーレはちらりと見て「いや、知らない」と答える。「本当ですか? もう一度よく見てください。この右の人物は軍の××、左の人物は△△です」「いや、面識はない」ゲリラは写真の他の部分を覆っていた紙を取り除ける。するとそこには彼らと一緒に座っている当のサントーレ本人が写っている。

またたとえば、サントーレはウルグアイに派遣される前、南米の他の国にも派遣されていたが、そこでの仕事を尋ねられ「物流関係のコンサルティングだ」と答える。するとゲリラ側は、当時のその国の内戦状況および経済状態を指し示し、当時、物流システムや設備が必要とされる状況にあったとは思えない、あなたの本当の任務は反政府勢力の掃討と活動の弾圧にあったのではないかと指摘する、といった具合。

パリ破壊を思い留まらせようと、言葉を尽くして駐パリ・ドイツ軍の将軍を説得するスウェーデン大使の映画“Diplomatie”を見た時にも思ったが、こういう、力ではなく言葉と論理で相手を落としていくというやり方は、本当にすてきだ。惚れ惚れする。

もちろんそれはただ単に立て板に水のような言葉の洪水で相手を圧倒するのでも、詭弁を弄して相手を煙に巻くのでもなく、真摯な言葉と明快な論理で相手を説得する、人間の理知に訴えるということで、だからそれは言葉を発する方だけでなく、言葉を受け止める方にも、それをわかるだけの力量が必要になるのだが、幸いこの映画では尋問される側のサントーレも、言葉に対して言葉で応えるという態度を保ち続けた。最終的には彼はゲリラに処刑されてしまうのだが、陰惨な印象がないのは、そのあくまで理詰めな双方の態度に負うところ大のように思える。

この映画『État de siège』(邦題:戒厳令)は、『Z』『L’aveu(告白)』と並んでCosta Gavras監督の三部作と呼ばれる。72年の作品だが、古さは感じられない。ただ一つ引っかかったのは、ウルグアイが舞台なのに、登場人物全員がフランス語を喋っていること。だいたいイタリア系アメリカ人であるはずのサントーレですら、終始流暢なフランス語を喋っていて(イヴ・モンタンが演じているのだから当たり前だが)、私は最初、舞台と人物と言語が噛み合わなくて、混乱してしまった。ウルグアイが舞台でフランス語なんて、日本が舞台で中国語を喋っているようなものだと思うのだが、そういうことは気にしなくていいのだろうか?
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ドロシー・L・セイヤーズ、ローリー・R・キング、P.D.ジェイムズ、ディック・フランシス、水村美苗、高村薫、戸塚真弓、ヘレン・ミレン、シャーロット・ランプリング、ソフィ・マルソー(40代以降に限る)、ヘレナ・ボナム・カーター、アンジェリーナ・ジョリー、三代目金馬、小さん、枝雀、エンヤ、クイーン、ドゥルス・ポンテス、マドレデウス、J・S・バッハ、ちあきなおみ、トケイ・ピノ・グリ、アール・グレイ、自転車(冬季を除く)、あらゆる犬と猫
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