食事

先月半ば、香港から知り合いが遊びに来て5日間ほど滞在した。お仕事時代、私が“次席”と呼んでいた人が、息子さんの卒業式に出席するためにご主人とともにNYに来、NY⇔モントリオール間は飛行機で1時間と東京⇔大阪並みに近いので、「帰りに寄るわ」となったのである。

ものすごく親しかったお友達というわけではないが、8年間、上司兼同僚として一緒に仕事をした仲だし、その8年間いろいろお世話になり、随分と親切にもしていただいた方なので、せっかく来てくれるなら楽しく過ごしてもらおうと、あれこれと準備を整え、彼女たち(ご主人は仕事が忙しいので先に帰ったが、息子さんは一緒に来た)が着いてからは、ケベック市に観光に行ったり、ナショナル・パークへピクニックに行ったり、最終日には彼女の希望で隣の市の大きな教会へ行ったりと、このあたりの観光スポットをぐるぐる。幸い5日間とも天候に恵まれ、毎日いいお天気で、しかも暖かかったので、青空の下、あちこちで写真を撮ったり、買い物をしたり、それなりに滞在を楽しんでいただけたとは思うのだが、ただひとつ食事だけは、大きく的を外してしまった。

この私、中華圏に20年近く住んで、香港/中国人式の食事についてはよーくわかっていたはずなのに、ケベックでの5年間ですっかりそれを忘れ、初日、プレイスマットの上に一人一皿、主菜に副菜2種、サラダにデザートという欧米式の食事を用意してしまったのである。

客人が内地から来た純粋中国人なら、私もこんなメニュにはしなかったと思うのだが、次席はホテルのブッフェを好むような和洋中華なんでも食べる人だし、息子さんはNYで4年間も生活したのだから、欧米式の食事でもだいじょうぶだろう、それに第一、私には中華の家庭料理なんか作れないし・・・と、ついいつもの通り、お義父さんや親戚の誰彼と食事をする時まんまの会食メニュにしてしまったのだが、しかしこれは大きな失敗だった。

まず初日、上記の主菜+副菜の食事を準備したものの、それでも一応、「ご飯(白飯)あった方がいい?」と聞いたら、大きく頷いて「あった方がいい」というので、急ぎ炊飯器を仕掛けた。そしてご飯が炊ける間、ふと「ん? ご飯+おかずとなると、主菜1品ではマズイ」と気づいて、慌ててもう2品ほど主菜というか、お菜を用意。ここで「そういえば香港の食事は、一人一皿じゃなくて、大皿に盛ったお菜をみんなでシェアして食べるんだった」と思い出して、箸を用意し、盛り付けもそのように変えたのだが、しかし何しろ土壇場での変更。お菜はなんとか3品そろったが、香港人の食事に欠かせないスープ(湯)までは手が回らず、初日の夜はスープなし。なんだか間の抜けた食事になってしまった。

2日目は初日に懲りたのか、次席が「私も手伝う」と言って、野菜スープと鶏蛋西紅柿(トマト卵炒め)を自ら調理。ご飯、スープ、お菜3品で、完全に中華の夕ご飯。

3日目は、ケベック市に出かけたついでに外食。ケベックに来たからにはこれを食べていただかなくてはということで、ケベック名物のプティン(フレンチフライにチーズをのせ、グレービーをかけた料理)をオーダー。この日だけは港式の食事から外れた。

4日目は、また完全中華メニュ。天気がよく暖かかったので、デッキのテーブルで食事。外で食べる楽しさからか、息子さんはご飯を4杯お代わりした。あの細い身体のどこにそんなに入るのか不思議だったが、しかし喜んで食べてもらえてうれしかった。

というように、外食だった3日目を除き、家での食事は毎日、白飯を主食にお菜をシェアする港式ごはん。
いろいろな点で相当程度西洋化されている香港人ではあるのだが、日本人同様、外での食事ではナイフとフォークの横メシを抵抗なく受け入れても、家での食事はやはりご飯とスープにお菜を添えて、箸で食べなければ食べた気がしない、ということらしい。

おかげで1日につき主菜1品、副菜2品で材料を用意していた私の目算は大幅に狂い、2日目ですでにスーパーに追加の食料買い出しにいく始末。それはそうである。お菜を3品作るというのは、主菜を3品作るようなもの。1日で3日分の主菜材料を使い切ってしまえば、2日目で材料が足りなくなるのは当たり前である。

思えばこのケベックに引っ越してきたばかりの頃は、逆に港式の食事方法がすっかり身に沁みついていて、家のお披露目の後、親戚一同20数人でレストランに行った時には、メニュを見ながら「ひゃあ、このメニュでどうやってシェアしたらいいんだろ? これとこれとこれを3品ずつ取って、これとこれを2品ずつ取れば、なんとかなるかな?」なんて算段し(料理のバラエティと量を考え、客の好みを勘案してメニュを決めるのは、主催者の腕の見せ所だったりする)、ついでに会計は主催者が持つに決まっているので、大体の金額まで計算していたら、実際には各人がそれぞれ自分が食べたいものを1品ずつオーダー。お会計も各自がそれぞれ払うと知って、顎が外れそうになった。

「なるほど、ここでは料理はシェアしないのね」と感心し、そうと知ってみれば、その方が簡単で楽ちんで、5年間ですっかりそれに馴染んでしまい、あげく香港人相手にまでそれをやって大失敗、というのが今回の顛末である。お粗末。やっぱり食事は相手を見て考えなくては、と肝に銘じた。

ちなみに今回の港式の食事、雪だるまには不評だった。客人の手前、口には出さなかったが、日に日に不機嫌になっていくのが、隣に座っていてよくわかった。彼、白飯は好みではないし、スープも嫌いなのである。ついでにベジではない客人に合わせて、肉、魚主体のメニュ(野菜料理ももちろんあったのだが)にしていたので、好きではないものばかり食卓に並んでいて、ついついぶー、というわけである。そして実は私自身も、常に主食があり、肉魚がある食事は、胃にもたれて困った。私もどうやら雪だるまに連られ、半ベジ化しているらしい。
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ドロシー・L・セイヤーズ、ローリー・R・キング、P.D.ジェイムズ、ディック・フランシス、水村美苗、高村薫、戸塚真弓、ヘレン・ミレン、シャーロット・ランプリング、ソフィ・マルソー(40代以降に限る)、ヘレナ・ボナム・カーター、アンジェリーナ・ジョリー、三代目金馬、小さん、枝雀、エンヤ、クイーン、ドゥルス・ポンテス、マドレデウス、J・S・バッハ、ちあきなおみ、トケイ・ピノ・グリ、アール・グレイ、自転車(冬季を除く)、あらゆる犬と猫
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