『Le cas Sneijder』

  • 2017/06/24 03:54
  • Category:
私が今フランス語の本を読むのは、日常生活で使えそうな語彙と表現を
頭に入れるためで、だからその部分が豊かであるなら内容は二の次、
話が面白くても面白くなくても、興味のある主題でもそうでなくても
どうでもいいようなものだが、そこはそれ、生身の人間、
しかも私という、どちらかといえば好き嫌いの激しい人間が読むのであるから
やはり“何でもいい”というわけにはいかない。

どうせ手間暇かけて読むなら、興味を惹く内容で、話が面白く、
その上さらに使われている語彙や構文が、初級の私でも何とか付いていける程度なら
願ったり叶ったり。それ以上望むところはないのだが、
実際問題としてそういう本を探し当てるのは、なかなかに難しい。

長年読み慣れている日本語の本なら、たとえ読んだことのない作者の本であっても
その装丁や帯の惹句、パラパラと拾い読みした文章の感じなどから
好みの本かそうでないか、即座に判断できるのだが
フランス語の本では、そうはいかない。
(大御所は別として)馴染みのない作家名、イメージの湧かない出版社名の連続で
軽い本なのか重い本なのか、古典的なのか奇をてらった新しモノなのか、
鼻が、まったく利かない。

なので自然、信頼できる方のお薦めや、どこかで読んだ書評などの
獏とした情報を頼りに本を選ばざるを得ないのだが、
そうした中でたまに自分の好みにぴたり当てはまる本に出合えると、
文字通り欣喜雀躍。うれしさに、手の舞い足の踏む所を知らず、という感じになる。

実は今読んでいる Jean-Paul Dubois氏の『Le cas Sneijder』がそれで
今までは苦役だった2日に1回の音読が、近頃は“お楽しみ”に変わった。
もともとはこの本をベースにした映画『La nouvelle vie de Paul Sneijder』を見、
それが大変面白かったので、原作を読みたくなって注文したのだが
これが大当たりだった。

主人公のポールは60歳で、妻アンナの転職に伴って
トゥールーズからモントリオールに移住した。
支配的で野心的なキャリアウーマンであるアンナとの間はすでに冷え切り、
アンナのクローンのような双子の息子にとって彼はいないも同然の存在、
彼の唯一の愛情と関心の対象は、前妻との間に生まれた娘マリーだったのだが
そのマリーは、休暇でモントリオールに滞在中、彼と共にエレベーター事故に遭い、
亡くなってしまう。
同じエレベーターに乗り合わせた5人のうち、生き残ったのは彼だけで
小説はコーマから覚めた彼の独白で始まる。

正直に言って、この小説で使われている語彙や構文は私には難し過ぎ、
知らない単語が1ページに付き20個くらいあるし、
わからない単語を全部調べた後でも、Google translate の助けを借りないと
文章の意味がいまいち判然としなかったりするのだが
それでも彼のスタイル、内省的でややシニカルなものの見方、
微かなユーモアなど、読んでいて実に楽しく、単語調べも苦にならない。

残念ながら日本語訳はまだ出ていないようだが、
フランス語を読むのが億劫でなければ、
そしてこの手の、やや持って回ったような綿々と続く文章がお嫌いでなければ
この本はお薦めである。

ところで本題とは関係ないが、この本の最初の方に
暖かい南仏のトゥールーズからモントリオールに移住した主人公ポールの
ケベックの気候に対するコメントが述べられていて
それが常日頃わたしが感じているのと全く同じで、大笑いした。
彼は「À dire vrai, je ne me suis jamais habitué à l’hiver d’ici,
ni davantage à la brièveté des autres saisons.
(拙訳:本当のところ、私はここの冬にも、他の季節の短さにも、
どうしても慣れることができなかった)」と言っているのだが
ほんと、ここは冬ばかり長く厳しくて、他の季節が泣きたくなるほど短いのだ。
印象では、春と夏と秋が3週間ずつで、あとはずうううううううっと冬。
おかげで花の咲いて散るのが早いこと!
私はゆっくりと過ぎていく、日本の春と夏と秋が、少し懐かしい。
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梨の木

らうとらさんがここまで面白いとおっしゃるからには、きっとすごく面白いのでしょう。まだ読んだことのない作家なので楽しみに、今度読んでみようとおもいます。

ところで、うちの夫の身内の若いカップルがまさにトゥールーズからモントリオールに移住したのです。元気でやっているようですが、会ったのは3年前、カナダで職を見つけたから移住するという話を聞いたのが最後です。モントリオールの住み心地、次に会ったら是非聞いてみたいところです。パリからでも南仏に行くと光の違いに驚くくらいですから、その南仏からいきなりケベックだと、相当大変なのではと想像します。
  • URL
  • 2017/06/24 21:00

らうとら

はい、私にはこの本、とても面白くて、毎日楽しみに少しずつ読んでいるのですけど、そして梨の木さんのお好みにも合うのではないかと想像するのですけれど、本ばかりはかなり親しい友人のお薦めでも微妙に外れることがあるので、お読みになって「うーん、ちょっと…」ていうことになってしまったら、ごめんなさい。なんでしたら、先に本屋さんでぱらぱらと立ち読みなさってみて。

それにしてもご親戚の方、トゥールーズ→モントリオールって、やっぱりちょっときついだろうと思いますよ。寒さが厳しいのはともかく、その長さが気を滅入らせるのです。なんたって視界から雪が消えるのが4月の末で、年によっては5月になっても雪がちらつくのですから。5月なのに朝起きて庭が白かったりすると、天に向かって「ばか、ばか、ばか~!」と大声で罵りたくなります。
  • URL
  • 2017/06/25 11:30

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プロフィール

らうとら

Author:らうとら
ドロシー・L・セイヤーズ、ローリー・R・キング、P.D.ジェイムズ、ディック・フランシス、水村美苗、高村薫、戸塚真弓、ヘレン・ミレン、シャーロット・ランプリング、ソフィ・マルソー(40代以降に限る)、ヘレナ・ボナム・カーター、アンジェリーナ・ジョリー、三代目金馬、小さん、枝雀、エンヤ、クイーン、ドゥルス・ポンテス、マドレデウス、J・S・バッハ、ちあきなおみ、トケイ・ピノ・グリ、アール・グレイ、自転車(冬季を除く)、あらゆる犬と猫
以上、私を幸せにしてくれる方々(敬称略)

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