FC2ブログ

『大魚海棠』

  • 2018/05/01 03:20
  • Category: 映画
中国のアニメである。『庄子•逍遥游』『山海経』『捜神記』の中の話や、神話の『女娲補天』などに着想を得たファンタジーとはいうものの、“神の圍楼”に住む少女“椿(チュン)”が、自分を助けるために命を失った人間の少年の恩に報いるため、少年の魂―小さな魚に変わってしまった少年の魂を、自分たちの世界に連れてきて世話をし、鯨と見まごうほどの大きさに育てて大海へ返そうとする。その間、彼女は数々の困難に遭う、というストーリーはさほど面白いとも思えず、主人公の椿や、その友達の男の子“湫(チウ)”、魚に変わってしまった人間の少年“鯤(クン)”の主要3人物も、達者に描かれてはいるが、どこかで見たような平々凡々たるキャラで魅力に乏しく、それだけだったら見て、忘れて、おしまいというよくある展開で終わったと思うのだが、このアニメ、それ以外の部分が面白かった。

まず面白かったのが、椿が暮らす“神の圍楼”の建物である。福建土楼がモデルと思われる円形の集合住宅で、高層、巨大。はやく言えばローマのコロッセウムを巨大集合住宅に変貌させ、それに赤と黒の中国的色彩を施したようなもので、何層にも重なる各階の軒々には紅燈が掛けられ、それが暗闇の中にぼうっと浮かび上がるさまは、実に妖しく美しい。

百聞は一見に如かずなので全貌が見える画像を探したのだが、これが見つからない。仕方がないので、中庭から見た画像2枚を載せておく。

weilou.jpg


weilou2.jpg


Wikiによれば、現実の福建土楼(12世紀から20世紀に建てられた)はすべての部屋が同じ大きさで、同じ材料を用い、同じ内装が施されているそうである。そこに住むのは1つの家の一族郎党で、つまり父母祖父母はもとより伯(叔)父、伯(叔)母、いとこ、はとこ、大伯叔父だのまたいとこだの、ありとあらゆる親族一同がみんな一つ所に住んでいるわけで、便利というかはたまためちゃくちゃ鬱陶しいというか、私だったら1週間で音を上げそうな住環境だが、外敵から一族を守るためにはこの構造が最良だったのだろう。ちなみに各家族は地階から最上階まで、縦割りで部屋を所有するのだそうで、大きな家族の場合は2つ、3つの垂直区分を所有することもあるとのことである。横割りではなく、縦割りであるところが面白い。

もうひとつ面白かったのが、主役以外の登場人物である。神か鬼かわからぬが、とにかく人間ではない異形のモノたちが、うようよと登場する。
中でも出色なのが霊婆と鼠婆子。霊婆など私は登場人物一覧を見るまで男(こういうものに性別があるとして)だと思っていたのだが、“婆”というところをみると男というよりは女であるらしい。いずれにせよ、頭は魚で身体は人間、しかも一つ目。唐服と思しきものを着て、頭には冠を被っている。死んだ人間の霊魂の管理がお仕事だそうだが、密かにいろいろとアヤシイ取引にも勤しんでいるらしい。ある時など卓を囲んで麻雀に興じていたが、ぱちんと指を鳴らすと他の3人はあっという間に猫に変わって、するりと逃げ去ってしまった。話す口調はねっとりとオネエ調だし、ぱっと見、“婆”というより“宦官”といった方がぴたりとくるようないやらしさで、なかなかいいキャラである。

lingpo.jpg


もう一人の鼠婆子は、白塗りの厚化粧におてもやん風の紅をさし、赤い髪飾りに赤い傘と、イタイ程の若づくり。“鼠婆”というだけあって、日がな一日ネズミたちと遊んでいる。趣味は若いイケメンをからかうことと、中年オバサンそのまんま。上に書いたような薄気味悪い容貌に加え、このお方もまた霊婆同様、粘りつくような口調で話すので、ますますナメクジに纏わり付かれているような気持ち悪さがひしひし。でもそこがいいのだ。どうせなら、椿みたいな可愛こちゃんキャラではなくて、この鼠婆子とか霊婆とかをメインにしたアニメを作ってくれればいいのに、と思う。その方がよほど面白そうだ。

shupozi.jpg


ところで言い忘れたが、このアニメ、霊婆や鼠婆子だけでなく、他の登場人物たちも割合ゆっくりした口調で話す。冒頭の老いた椿のナレーションなどさらにゆっくりで、聴写(ディクテ)ができそうなほど。しかもなまりのないきれいな発音。リアルさを追求する映画では、登場人物がこういった速度と発音で話すことなどほとんどないから、私など字幕なしではセリフを聞き取れたためしがないが、ファンタジーアニメではリアルさは別のところにあるので、まるで読み聞かせのような聞き取りやすい速度と発音で、セリフが語られるのは有難い。というわけでこのアニメ、中国語学習者にはお薦めである。
(とは言うものの、正直わたしは普通話を聞くと仕事時代を思い出すので、できれば聞きたくない。広東語なら何の屈託もなく、懐かしく聞けるのだが・・・)
スポンサーサイト

Pagination

Trackback

Trackback URL

http://gaudynight.blog.fc2.com/tb.php/1939-40da2ccc

Comment

Post Your Comment

コメント:登録フォーム
公開設定

Utility

プロフィール

らうとら

Author:らうとら
ドロシー・L・セイヤーズ、ローリー・R・キング、P.D.ジェイムズ、ディック・フランシス、水村美苗、高村薫、戸塚真弓、ヘレン・ミレン、シャーロット・ランプリング、ソフィ・マルソー(40代以降に限る)、ヘレナ・ボナム・カーター、アンジェリーナ・ジョリー、三代目金馬、小さん、米朝、枝雀、エンヤ、クイーン、ドゥルス・ポンテス、マドレデウス、J・S・バッハ、ちあきなおみ、トケイ・ピノ・グリ、アール・グレイ、自転車(冬季を除く)、あらゆる犬と猫
以上、私を幸せにしてくれる方々(敬称略)

カテゴリー+月別アーカイブ

 

FC2カウンター