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『Petit éloge de l’errance』

  • 2018/08/08 01:31
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今、音読している水林章さんの 『Petit éloge de l’errance』 。梨の木さんが3年ほど前に紹介され、面白そうだったのでその年のクリスマスに買ってもらったのだが、当時は文章が難しすぎて、まったく読めなかった。で、そのまま放っておいた。が、先日、叔母さんの1人が貸してくれたので、読まないわけにはいかなかった本を、1年近くかかってやっとこさ読了したので、「今なら読めるか?」と手に取ってみたら、何とかなりそうだったので、読み始めた。

ここ数年、私は世間に対する関心がますます薄れ、さまざまな国の様々な指導者たちがどのような発言をしようと、あるいは行動を取ろうと、テロや天災、未曽有の大事故が起ころうと、「ああ、そう・・・」という感想しか出て来なくなっている。感情が鈍磨したのか、倫理観がなくなったのか、見知らぬ他人がプレイしているテニスの試合をTVで眺めるように、世間のありさまを眺めている。本当は、私は観客とは言っても画面のこちら側ではなく、当の試合会場にいる観客、まかり間違えば打たれた球が飛んできて、頭にすこん!と当たる可能性がある観客で、世間の出来事は他人事ではなく、自分事(?)であるはずなのだけれど。

『Petit éloge de l’errance』の中でも何度か言及されている加藤周一はかつて、「特定の状況に対して怒ることのできる能力は、人間の能力の中でも大切なものの一つであろう」と書いた。私が最後に怒ったのは、一体いつだったろう。何が起こっても「ああ、またか」と、無責任な諦観で応じてしまうのは、怠惰以外のなにものでもない。そしてその怠惰の源には、水林氏の書く“異を唱えることを非とする日本社会”、“長いものには巻かれろ”の体制順応主義がある。美しい国・日本の伝統に、私も骨の髄まで染まっているのである。

その染まっていることを認識するために、かの国の美しさは、何度でも、何度でも指摘してもらった方がよい。水林氏の同書はフランス語なので、私には細部を全部すっ飛ばかし、大意を掴むといった程度の読み方しかできないが、その程度の読み方でも、思うところは多々ある。
3.11から7年経ち、ニュースサイトの見出しに「福島」の文字を見ることはほとんどなくなったが、「福島」は終わったわけではない。今も放射能は漏れ続け、被害は広がり続けている。しかしそういう報道はされない。政府の方針と相反し、福島の“復興”を妨げる情報の報道は、歓迎されないからである。が、報道されなければ、話題にならなければ、人は忘れる。すべて順調にいっているかのように、そのことには目を向けず、日常生活を送る。

憲法改正についても、安倍首相は昨年末、「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と発言し、改憲に向かって粛々と前進するお気持ちのようだが、日本国民は本当にそんなことを望んでいるのか? 大多数は私同様、ただ怠惰なだけではないのか。異を唱え、人と違った行動を取るのは、エネルギーのいることだから。しかし怠惰がどういう結果を生むかは、過去を見れば明らかである。それを思い出すためにも“長いものに巻かれる”危うさは、何度でも指摘してもらった方がよい。

ところで、同書はそういう“思うところ多々”の他にも、楽しい記述があった。ひとつは冒頭のクロサワ映画の話である。有名過ぎて、黒沢明氏の映画や三船敏郎氏には関心がなかったのだが、水林氏が『用心棒』と『椿三十郎』に言及されているので、どんなものかと思って見てみた。そして「へえ」と思った。三船敏郎演ずる主人公の軽妙ないい加減ぶりが、なかなかに面白かったのである。『椿三十郎』の方は、家老の奥方の、とろいまでにおっとりした人柄というか、悟りを極めた禅僧かと一瞬錯覚するような天然ぼけの妙味も印象に残った。

その他、音楽における“声”と、ひとの意見としての“声”を対照するところも面白かった。残念ながら私は音楽に詳しくないので、水林氏が語るフィガロやコジ、ベートーヴェンの弦楽四重奏の美しさを自らの体験として「ああ、その通り」と納得して同意することはできないのだが、想像することは(かろうじて)できる。


『Petit éloge de l’errance』は、あと少しで読み終わる。次は、『Une langue venue d’ailleurs』を読みたいと思う。
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ドロシー・L・セイヤーズ、ローリー・R・キング、P.D.ジェイムズ、ディック・フランシス、水村美苗、高村薫、戸塚真弓、ヘレン・ミレン、シャーロット・ランプリング、ソフィ・マルソー(40代以降に限る)、ヘレナ・ボナム・カーター、アンジェリーナ・ジョリー、三代目金馬、小さん、米朝、枝雀、エンヤ、クイーン、ドゥルス・ポンテス、マドレデウス、J・S・バッハ、ちあきなおみ、トケイ・ピノ・グリ、アール・グレイ、自転車(冬季を除く)、あらゆる犬と猫
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