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『家守綺譚』『ミミズクとオリーブ』

  • 2018/10/10 00:41
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近所に日本語の本を売っている本屋などないので
日本語を読むとしたら、手持ちの本ばかり。
日本を離れて二十数年、
どんな本が話題なのか、どんな新しい作家が出てきているのか
もう、とんとわからなくなった。

それでも、YouTubeにアップされる朗読は、まめにチェックしている。
編み物や手仕事のお供に欠かせないからだが
それで最近2人ばかり、割合気に入った作家さんを見つけた。

1人は芦原すなおさん、もう一人は梨木香歩さんだ。
私にとって新しいというだけで、お二方ともすでに20年以上、
堅実に作品を発表されているベテランの作家さんだが、
どういうわけだか今までは、私のアンテナに引っかかってこなかった。

梨木さんの方は『西の魔女が死んだ』くらいは知っていたが
これはまあ児童書だから自分で読もうとは思わなかったし
そもそもは「梨木香歩」というお名前が、私には何やら甘い少女趣味に響いて
作風もそんなかと、早合点の食わず嫌いをしていたのである。

芦原さんに至っては、失礼ながらお名前さえ聞いたことがなかった。
私が日本にいた頃から活躍されているというのに
文藝賞や直木賞も受賞されているというのに
記憶の隅にすらお名前がなかったのは、不思議といえば不思議。
90年代初めの私は、いったい本屋で何を見ていたのか。

それはともかく、梨木さんの方は『家守綺譚』を聞いた。
聞き始めてすぐ、甘ったるさとは無縁の、割合に古めかしい言葉遣いと文体に
「あら」と思い、お名前の印象から早合点して申し訳なかったと思った。
時代はたぶん明治の終わりころ、京都に蹴上発電所ができた頃の話のようである。
植物に詳しい方らしく、短編仕立ての各章は、それぞれ「烏瓜」「都忘れ」など
草木の名が冠され、それにまつわる話となっている。
庭の百日紅が主人公に懸想したり、
若くして亡くなった主人公の友人が、掛け軸の中からボートを漕いで現れたり
なかなかに不思議なことも起こるが、
全体としては不思議なことを不思議としない、淡々とした描写で
聞いているこちらも、静かな心持ちになる。
手仕事のお供には、もってこいである。

芦原さんの方は、『ミミズクとオリーブ』。
紺絣の着物に白い割烹着姿の女性が描かれた表紙を見て
一体いつの時代の話かと思ったが
話の中にワープロやら銀座のクラブやらが出てくるので
少なくともワープロ出現以降、昭和の終わりか平成の初め頃の時代設定らしい。
推理小説ということにはなっているが、謎解きの本格推理を楽しむというよりは
主人公である“ほどほどに仕事が来る作家”とその妻の
東京郊外での、のんびりした日常の描写の穏やかさを楽しむといった小説である。
八王子の田舎での暮らしなので、庭にオリーブの木があり、そこにミミズクが来る。
主人公の妻は時々、そのミミズクにサツマイモの残りやイリコを振舞ったりする。
彼女の、尖ったところのない、おっとりした物言いがここちよいし
ところどころに出てくる、主人公夫妻の故郷である讃岐の美味の
いかにも旨そうな描写も、郷愁をそそる。

『家守綺譚』にしろ『ミミズクとオリーブ』にしろ
こういうしっとりした描写の本は、ぜひとも紙の本で、
その手ざわりや活字のひとつひとつを楽しみつつ、ゆっくりと読みたいものだが、
さて紙の本を買いに日本へ行けることが、あるかどうか。
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Author:らうとら
ドロシー・L・セイヤーズ、ローリー・R・キング、P.D.ジェイムズ、ディック・フランシス、水村美苗、高村薫、戸塚真弓、ヘレン・ミレン、シャーロット・ランプリング、ソフィ・マルソー(40代以降に限る)、ヘレナ・ボナム・カーター、アンジェリーナ・ジョリー、三代目金馬、小さん、米朝、枝雀、エンヤ、クイーン、ドゥルス・ポンテス、マドレデウス、J・S・バッハ、ちあきなおみ、トケイ・ピノ・グリ、アール・グレイ、自転車(冬季を除く)、あらゆる犬と猫
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