遺伝子組替えと歯列矯正

  • 2009/11/10 15:27
  • Category: 雑記
先週の日曜、聞こえてくる内容のおもしろさに惹かれて途中から見たTV番組、あとで調べたらBBCの”Visions of the future”2007年制作)という番組だった。先週のテーマは動物の遺伝子組替えで、現在その技術は私が思った以上に進んでおり、ヒトではまだだが、マウスではすでに遺伝子組替えにより学習能力・記憶能力の高い個体、運動能力の優れた個体を生み出すことに成功しているそうである。


つまり今後研究が順調に進めば、ヒトでも遺伝子組替えにより学習能力の高い個体や、体格や運動能力の優れた個体、特定の/あるいはすべての病気に強い個体などが作り出せるということである。わお!


ただし、そうなった時問題になるのは、私たちはどの程度までこの技術をヒトに応用したいのかということだ。遺伝子組替え技術が確立され、たとえば自分の子どもの遺伝子を組替えて、より学習能力が高く、より運動能力にも優れた子どもに“改造”できるようになった時、私たちは本当にそれを望むのかというだ。


慎重派の識者は、たとえば人類が全員、知力と運動能力に優れ、病気に強いスーパーマンのような理想的個体ばかりになったとして、それで果たして幸せなのかと問う。さまざまな個体がいて、さまざまな考え方をし、複雑な社会をつくっているからこそ、人類なのではないかという考え方だ。多様性を失った動物種は、生息環境が変化した時、それに適応できないとあっけなく全滅してしまう可能性があることも問題だ。


一方、よりよくできる技術があるのに、それを利用しない手はないという識者もいる。現在でも親は、子どものしあわせを考え、子供によりよい人生を送らせようとして教育を受けさせたり、いろいろなスポーツ教室に通わせたり、楽器を習わせたりする。そうやって子どもの成長環境を改善し、子どもを“よりよく”形成しようとすることと、遺伝情報を改善して子どもを“よりよく”することとの間に、どんな差があるのかという立場だ。


私としては、子どもの外部環境を整えるのと、内部(遺伝子)を整えるのは違うんじゃないかという気がするが、しかし考えてみれば、今だって親は子どもの身体を、よりよい状態に整えようとしている。多少の改造だって行なっている。歯列矯正などはそのよい例だ。歯並びの良し悪しは生死に関る欠陥ではなく、歯並びが悪くたって死ぬわけではないが、親は一応矯正を心がける。その方が子どもがよりよいジンセイを送れると考えるからだ。子どもの歯並びを整えることは、経済的に豊かな国々では今や当たり前で、悪い歯並びのまま放っておくと親の教養と資力を疑われる。
同様に、将来的にヒトの遺伝子組み替え技術が確立した時、子どもの遺伝子を“自然”のまま放っておくのは、親として恥ずかしいことになりうる?


番組の案内役は理論物理学者のカク・ミチオ(加来道雄)さんだったのだが、彼は「私も子ども達が小さかった頃は、ヴァイオリンを習わせたり、家庭教師をつけたりした。将来、たとえば隣の家の子どもが遺伝子組替えを受けて記憶力、学習能力が高くなったと聞いた時、そして学校で自分の子どもと競いあっていると知った時、自分の子どもにも遺伝子組替えを受けさせたいという気持ちを抑えるのは非常に困難だろう」と言う。確かにその通りだろうと思う。誰だって自分の子どもがハンディキャップを負って競争の場に出ていると知れば、心穏やかではなく、そのハンディをできるだけ取り除こうとするだろう。それが自然な感情だ。


ただヒトの遺伝子組替えには倫理的立場からの反対もあるから、ヒトクローン同様、各国政府が規制しそうな気もするが、しかしいったん技術が確立してしまったら、そのヒトへの応用を規制するのは、ほぼ不可能だ。もちろん法律を作り、応用を“禁止”することはできる。しかし禁止で無くなるのは適法な取引だけであって、違法な取引(闇マーケット)は無くならない。需要のあるところには常に供給が現れる。闇マーケットがなくなることはなく、違法取引を完全に取り締まることは不可能なのだ。


そしてたぶんここでも資力の差が能力の差につながるだろう。今だって経済力のある親の子どもは、家庭教師や塾など整った学習環境により高い学習能力を示しやすい。推測するに将来的な遺伝子組み替えだってタダではあるまいから、組替えするには費用がかかり、その費用を払える親の子どもだけが遺伝子組替えを受けられることになる。そうして二極化はますます進むのだ。番組でも言っていたが、地球のある国では清潔な飲み水すら確保できない児童が存在する一方、別の国では遺伝子組替えで高い能力や優れた健康を手にする児童が存在することになるのだ。かくて格差はますます進む。


ところで遺伝子組替えでは徳性の高いヒトを生み出すことはできないんでしょうかね? 知力も体力も健康も大事ではありますが、私はヒトに一番欠けているのは徳性だと思ってますので、むしろこちらを強制的に高める改造を心がけた方が“地球と宇宙のよりよい未来”につながるように思うのですが、いかがでしょうか。 


 
*”Visions of the future”3部作で、1. The Intelligence Revolution  2.The Biotech Revolution  3. The Quantum Revolution に分かれています。下記URL2のエピソードの一番最後の9分間ですが、同じ人が3部作全部アップロードしてくれていますので、興味のある方はどうぞ。大変面白いです。

 
http://www.youtube.com/watch?v=vOY55p27b-A&feature=PlayList&p=4058B174FC518D08&index=11
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