トリスターナ

  • 2008/12/24 11:57
  • Category: 映画
相変わらず週末には56本の映画を見ているのだが、先週末見た中で印象に残ったのは、カトリーヌ・ドヌーブ主演の『哀しみのトリスターナ』(’70年)。別に感心したのではなくて「なんとまあ、自ら好んで不幸になりたがる人であることか・・・」とやや呆れたのである。「あほかい」とも思った。
猟奇と幻想と耽美がお家芸のブニュエルを前に、身も蓋もない鑑賞の仕方で申し訳ないが、事実これが私の感想なのだから仕方がない。


そもそも全編通して、彼女には「これが欲しい」とか「こうしたい」という強い意思があるんだかないんだか判然としない。16歳で孤児になり、母親の遺言で伯父のドン・ロペの養女になったのは仕方がないとして、その伯父が彼女の美貌と清純に惹かれてモノにしようしても、抵抗するわけでもなければ、逆に誘惑するわけでもなく、いわば為すがまま。
しかし老人の欲望の醜さは嫌っていて、仲のいい女召使いには不満を漏らすし、伯父に隠れて若い恋人を見つけ、逢引を重ねた挙句に駆け落ちをする。
これだけ見るとこの若い恋人に執心があるように見えるが、しかし2年間同居はしても結婚は承諾せず、重い病気に罹って死にそうになると伯父の元に帰りたがる。恋人は仕方なく伯父に詫びを入れ、トリスターナを迎えてくれるよう頼む。
そして実際伯父のもとに戻るのだが、じゃあ伯父を憎からず思っているのかと言うと、そういうわけでもないらしく、相変わらず伯父には辛く当たるし、恋人にも「私があなただったら、たとえ何があっても恋人を他の男のところにやったりはしないわ」とトゲたっぷりの嫌味を言う。
脚の腫瘍がひどくなって片足を切断したあとは、ますますいけない。思い通りに行かないジンセイに対する恨みつらみで、ますます性格がねじくれてくる。最終的には伯父の希望を容れて伯父と結婚するが、伯父のおずおずした愛情はうっとうしいだけで、傲然と老人の欲望を馬鹿にして新婚初夜から寝室は別だ。そのくせ女召使いの口の利けない息子には、ベランダから裸身を見せつける。その時の表情にはなかなか凄みがあるが、しかしあれは満足の表情ではない。
冬の夜、以前とは打って変わって教会を受け入れ3人の司祭とともにコーヒーをすする伯父と、その部屋の外の廊下を松葉杖の音を高く響かせて何度も何度も行き来するトリスターナ。その濃い頬紅に彩られた恨みの表情。(伯父の家に戻ってから、トリスターナの化粧は濃くなる。伯父が妹の遺産を相続して金回りがよくなったせいもあるだろうが、服装も装飾品も派手になる。それがまたトリスターナの不幸を強調する)
そして最後には心臓発作を起こした伯父(=夫)を放置し、さっさと死ぬように雪降る窓を開け放ったりして見事に殺すのだが、「死んだあ! やったあ! しあわせ〜!」という感じでもない。


わたしは頭が単純なので、こういう風に自分の欲しいものが何だかよくわからない手合い、あるいはAを欲しいと思い手に入れるが、手に入ってしまうと今度はBが欲しくなり、結局どちらを手に入れても不満でフラストレーションばかり溜め込む手合いというのは理解の外だ。ある映画評ではトリスターナを“運命に翻弄されと表現していたが、同意しかねる。彼女のジンセイに出現したもののうち完全にコントロール不能だったのは、未成年で孤児になったことと、脚の腫瘍だけだろう。あとはみんな彼女自身の選択の結果、あるいは選択しなかった結果だ。非は自身にある。“運命に翻弄などされていない。老人の欲望を醜いと思い、伯父の囲い者になるのがいやなら「いやだ」と言えばよかったのだ。少なくとも伯父は筋力でトリスターナをねじ伏せるタイプではない。生殺与奪権のある保護者としての無言の圧力というのもわからないではないが、ほんとにいやなら少しくらい抵抗しろよ、である。
恋人兼同棲相手の画家との生活の詳細は描かれていないのでよくわからないが、ほんとに欲しくて(または大好きで)駆け落ちしたのなら、それなりに幸せだったのだろうし、だったら「死期が近い」と思い込んだところで、伯父のもとに帰ろうとなんかするな、である。結局駆け落ちは伯父の束縛を逃れるための方便か?


なんだかいろいろ好き勝手に書いたが、この映画30年前に見ていれば好きになったかも。10代半ばから20代半ばくらいまでの私は、この手のどろどろ映画が好きだったのだ。シャーロット・ランプリング主演の“Night Porter”に星5つ評価を与えたのもこの頃だ。(しかし先日見直した時は、昔ほど感心はしなかった。シャーロット・ランプリングは相変わらずいいなあとは思ったけど。一緒に見ていた夫に至っては「boring・・・」と一言)
しかし20代後半から私の嗜好は“ただ素直に珍しからぬものには如かず”派になってしまい、こうした凝りに凝った材料と手順で仕立てたフランス料理風映画はどうでもよくなってしまった。洗練は単純にあると思うようになったのだ。
なんというか、年取るとお茶漬けが好きになるのと同じかもね。食べ物の方は相変わらず複雑怪奇も好きですが。
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ドロシー・L・セイヤーズ、ローリー・R・キング、P.D.ジェイムズ、ディック・フランシス、水村美苗、高村薫、戸塚真弓、ヘレン・ミレン、シャーロット・ランプリング、ソフィ・マルソー(40代以降に限る)、ヘレナ・ボナム・カーター、アンジェリーナ・ジョリー、三代目金馬、小さん、枝雀、エンヤ、クイーン、ドゥルス・ポンテス、マドレデウス、J・S・バッハ、ちあきなおみ、トケイ・ピノ・グリ、アール・グレイ、自転車(冬季を除く)、あらゆる犬と猫
以上、私を幸せにしてくれる方々(敬称略)

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