劣位者の言語

  • 2008/07/25 15:51
  • Category: 言葉
日本の証券会社から研修に来ているJさん(もともと中国人だが日本に長く、奥さんも日本人)から「どうしてHK人は普通話の学習に熱心ではないのか」と聞かれた。「え、そんなことないでしょう? 今はいろんな人が勉強してるし、私がHKに来た当初の15年前に比べたら、街でもずっと通じるようになったよ」と返したのだが、納得している様子はなかった。 

J
さんとしては、横丁のおじさん、おばさんが広東語しか話せないのは仕方がないとしても、各企業や公共機関で対応に現れる人物の普通話が、時として悲しくなるようなレベルであること、そして何より、今参加している研修の講義が時々広東語になってしまうことに、ほとほと困り果てているらしい。 

講義は内容が国内企業がらみである関係上、本来普通話で行なわれるはずなのだが、そこはそれ講師の先生が
HK人で、講義を受ける生徒も大部分HK人だったりすると、普通話で始まった講義が、いつのまにか広東語に変わってしまうこともしばしばあり、そうなると東北出身で広東語はまったくわからないJさんはお手上げ。右から左に聞き流して、テキストを見ているしかない。 

植民地時代ならいざ知らず、
97年の返還からすでに10年。いくら当地の第1言語は広東語とは言え、小・中学校では普通話の授業があり、テレビでも普通話番組を放送し、企業でも普通話講座などの研修を実施しているにも関わらず、実際にの普及度は英語以下でしかないことに、Jさんは苛立っているのだ。そして「ここは中国の一部なのに・・・」と言う。 

確かに“国家”という観点から見ればそのとおりなのだが、
HK人で「HKは完璧に中国の一部」と思っている人は、まずおるまい。「一国二制度」という言葉が象徴するとおり、対外的には中国の一部であっても、対内的、心情的には、“大陸”なんかといっしょにされたくはないと、大部分のHK人は思っているはずである。HK人にとっては、大陸の人はいまだに無知で垢抜けない田舎者であり、それはたとえ中国が過去10年で急速に経済力をつけ、人民元と香港ドルの対米ドルレートが逆転した今でも、変わらない。超高学歴のエリートは別として、大陸出身者はHKの企業では厚遇されないし(低い給料、遅い昇進)、普通話で買い物して丁寧に扱われることもない(一部の高級ブランドでは大陸客樣樣だろうが、これは彼らの購買力の前に膝を屈しているだけであって、内心どう思っているかは客が帰った後の店員同士のお喋りを聞いていればわかる。バブル期の日本人が欧州の有名店で受けた扱いと同じである) 

つまり
HKでは、普通話は劣位者の言語なのだ。かつての宗主国の言語、英語がいまだに優位者の言語であり、英語が話せなければまともなサラリーマンにもなれないし、昇進もおぼつかないのとは、ちょうど反対に。(最近大陸相手の商売が増えている一部企業では、普通話“も”話せることが必須になりつつあるが) つまり英語はエライが、普通話はえらくない。オトモダチも言っていた。たとえばバスの中とかで、普通話で話している時と、日本語/英語で話している時では、周りの態度が違うと。どっちがどのように違うかは、ここまでお読みくださった方には、明白におわかりになるはずだ。
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ドロシー・L・セイヤーズ、ローリー・R・キング、P.D.ジェイムズ、ディック・フランシス、水村美苗、高村薫、戸塚真弓、ヘレン・ミレン、シャーロット・ランプリング、ソフィ・マルソー(40代以降に限る)、ヘレナ・ボナム・カーター、アンジェリーナ・ジョリー、三代目金馬、小さん、枝雀、エンヤ、クイーン、ドゥルス・ポンテス、マドレデウス、J・S・バッハ、ちあきなおみ、トケイ・ピノ・グリ、アール・グレイ、自転車(冬季を除く)、あらゆる犬と猫
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