重要なのは事実ではなく

  • 2011/04/06 15:35
  • Category: 日本
ジャッキー・チェン主催の日本支援イベントで2.6億円の義捐金が集まったり、中国国内、台湾からも多くの義捐金が寄せられたりするからには、歴史的には数多の問題が存在するにせよ、容易ならぬ状況にある日本の被災者に同情の気持ちを持つ人は少なくないのだと思うが、その一方で地元紙に「今回の地震・津波の原因は日本が深海核実験を実施したためとの説あリ」との記事が載ったり、「11日に米が冷却材の提供を申し出たのに日本が拒絶したのは、実は核兵器に転用可能なプルトニウムを大量保有している事実を知られたくなかったから」とするメールが回っていたりするのは、なかなか心萎えるものがある。

記事の方は3月24日の香港経済日報に掲載された。「ネット上にそういう説が載っていた。信じる信じないはあなた次第」という前置き付ではあるが、A4版程度のスペースに、今回の地震・津波の原因は日本が深海核実験を実施したためだ。その根拠は、1.3月12日、被災地に向かっていた米空母ロナルド・レーガンは福島第一から北東約185kmの洋上で、原子炉から放出された放射性の煙雲を通り抜けた。このため全船員が通常の1カ月分に相当する放射線被爆を受けた。また同じく救援活動に参加していた米軍ヘリコプターも、原発の北方約97Kmの地点で、微粒状の放射性物質に覆われたため、除洗せざるを得なかった。しかしこの時点では福島第一3号機の水素爆発はまだ発生しておらず、1号機の水素爆発のみで、日本政府の発表では放出された放射性物質の強度と拡散範囲は、さほど高くなく、避難区域も原発から半径10kmの範囲に過ぎなかった。ならばなぜ、約200kmの洋上にいた空母や、100kmの空中にいたヘリコプターが被爆したのか? この“放射性の煙雲”とは何か? というもので、このあとに2として日本が発表した震源地と、中国および米国の調査による震源地との差異、日本政府は地震発生1分前に地震警報を発しているが、通常こんなに早く警報は出せない、3として仮に日本が核実験を実施するとしたら、深海以外に実施できる場所はない 4として日本には核武装の願望があることを検証するため、1990年代以降の日本の政治家の核武装容認発言が引用されている。

メールの方は次席が「時間があったら読んで」と転送してきたもので、次席に届くまでにすでに4、5人を経てきている。内容は日本は原子力発電を名目にプルトニウムを製造・貯蔵し、核武装準備を進めていると訴えるもので、私はその非常に感情的な文章および筆者が根拠とするデータが正確でないことに、「どうしてこういうものが出てくるのか」と一読して意気阻喪。大変暗い気持ちになった。

もっとも「どうして」とは書いたものの、出てきた背景は言うまでもなく日中間に横たわる過去の歴史認識の違いである。日本政府/日本人がどのような発言をしようと、中国政府/中国人にとってはあの戦争は侵略戦争であり、中国は侵略された側なのだ。

私自身は意識が低く、またふだん付き合っている人に偏りがあるせいもあって知らなかったが、普段中国人との付き合いが(私よりは格段に)多いオトモダチは「プルサーマル始め、日本がプルトニウムにこだわるのは、核兵器転用が可だからというのは、中華圏に限らず諸外国においてはたぶんたいへん一般的な見方」との意見。

ここで重要なのは、事実日本が核武装準備のためプルトニウムを溜め込んでいるかどうかではなくて、そう考えている人が少なからずおり、その前提のもとに打ち出される推論があり、意見があるということである。(英米はイラクが大量破壊兵器を保有しているという前提のもとにイラクに侵攻した。その後「実は持ってなかったみたい」となったが、すでに遅し) 

今、日本人の大部分は仮定としてすら“日本が中国に侵攻”することなど考えられず、むしろ「は?逆でしょ? 中国が日本に攻めてくる方が、よっぽどありそう」と、むしろ国力・軍事力からみて中国の方が脅威との見方の方が一般的のように思えるが、どうやらこの見方は中国人にとってはコンセンサスではないようだ。日中間の温度差は過去の歴史認識だけでなく、現状認識についても存在するということか。
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ドロシー・L・セイヤーズ、ローリー・R・キング、P.D.ジェイムズ、ディック・フランシス、水村美苗、高村薫、戸塚真弓、ヘレン・ミレン、シャーロット・ランプリング、ソフィ・マルソー(40代以降に限る)、ヘレナ・ボナム・カーター、アンジェリーナ・ジョリー、三代目金馬、小さん、枝雀、エンヤ、クイーン、ドゥルス・ポンテス、マドレデウス、J・S・バッハ、ちあきなおみ、トケイ・ピノ・グリ、アール・グレイ、自転車(冬季を除く)、あらゆる犬と猫
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